【寄稿】豊洲市場訴訟、建築基準法令違反をめぐり本裁判へ
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(協)建築構造調査機構 代表理事 仲盛 昭二 氏
豊洲市場・水産仲卸売場棟に関して、建物を建築基準法令に適合するよう仲卸業者が是正を求めた訴訟。並行して申し立てられていた同建物の「仮の使用禁止の申し立て」に対して、東京地裁は、申し立てを却下することを10月5日付けで決定しました。決定文に示された理由は、行政上の手続きについてのみであり、争点であった、国内最大手の設計事務所「日建設計」の設計偽装による建築基準法令違反については、今後、本裁判で争われることとなる見込みです。
6日、築地市場は閉場し、豊洲新市場への移転が開始されました。しかし、この裁判を闘う仲卸業者たちは、豊洲新市場開場後も築地に残り、営業を続ける覚悟だと聞いています。また、築地市場内に借地権を有し、自己の建物を建設し営業を続けてきた業者も居り、築地に残り商売を続けるそうです。
法律の専門家によれば、築地市場の仲卸業者は、それぞれの業者が営業権を有しており、市場の組合である東京魚市場卸(協)(略称:東卸)が豊洲への移転に賛成しても、個々の仲卸業者の同意とはまったく次元の異なるものであり、組合の賛成は仲卸業者に対して法的影響をおよぼすことはないということです。築地市場内に建物を所有している業者に関しても、所有者の同意なく東京都が勝手に解体することは法的に認められません。
豊洲市場の建物の設計における偽装の代表的なものは、大地震の際の耐震強度を 計算する保有水平耐力計算の時に用いる重要な係数を偽装した悪質な偽装です。豊洲市場に関する仮処分の申立に関して、東京都は、仮の使用禁止命令に関する行政手続き上の法律論の解釈論だけを裁判官に印象付け、裁判官を惑わす作戦だったようです。東京都の思惑通りの決定だったのかもしれませんが、原告にとっては、本訴の主張の中心である建築基準法令違反以外の法律論が整理されたので、本訴が戦い易くなったといえます。
仮の義務付け申立に対する決定において、裁判所は、原告の主張の核心部分である建築基準法令違反には触れておらず、かつ、建築基準法令に関する東京都の反論主張に対しても、裁判所は「ダンマリ」を決め込んでいます。原告の客観的な技術主張に反論できる筈がないのです。
今回の仮処分に関する決定は、民VS官の「仮処分問題」に共通する行政と裁判所がよく使う典型的な方法です。裁判所とすれば、10月11日に開場する豊洲市場を「使用禁止」にすることは社会的混乱を招く恐れがあるので、使用禁止を決定したくない。しかし、建築基準法令違反に踏み込めば、使用禁止に触れなければならないので、本裁判の目的である建築基準法令違反を仮の義務付けから意図的に外したものです。
本裁判の目的主旨は、「本件建築物は建築基準法令違反なので適法になるように是正命令を出せ」の【一点突破の要請】だけなのであり、建物の安全性を問うているのではありません。東京都が是正措置を講じず、日建設計の違法行為を肯定するのであれば、東京都には特定行政庁の資格はないといえ、日本で最大の自治体である東京都の建築確認制度そのものが崩壊してしまいます。法令・規準に違反した設計を行っても、最終的に行政が保護するのであれば、法治国家の体を為さず、設計も施工も無法地帯と化します。たとえば、制限速度が時速50kmのところを120kmで走っても、「結果として事故は起きなかったから、制限速度は関係ありません。参考程度の認識で構いませんよ」と取り締まる側の行政が自ら公言しているようなものです。
今回の仮処分申立が、行政手続きの理由だけで却下され、本命の構造技術論だけを浮き上がらせることができたので、むしろ本裁判では、原告である仲卸業者側が戦略的には戦いやすくなったと、私は考えます。
本裁判においては、徹底的に、東京都、日建設計に対して、正論をぶつけ、追い詰めるだけです。仮の義務付け申立の時点で、東京都は一応技術反論らしきものを主張していましたが、裁判所が取り上げなかったことからも、法的に不十分な主張であったことは明らかであり、本裁判においても、東京都の技術的主張は苦しいものとなり、東京都は嘘に嘘を重ねる以外に道はありません。しかし、「建築基準法令違反の事実は事実」なのです。この事実の前に、東京都が詭弁を弄して繕うことは不可能なのです。東京都が反論できない状況において、今度は、主犯である日建設計を攻撃の的とし徹底的に追及すれば、比較的に簡単に決着は付くかと考えています。これは、全国の誠実な建築技術者の為にもぜひともやらなければならないと決意しています。
日建設計に、些かの技術者としての良心が残っているのであれば、この時点で、自ら偽装の事実を自白すべきと考えます。そうしなければ、これまで日建設計が設計に関与したすべての物件にも、同様の偽装が行われていたと疑わざるを得ません。
テレビなどマスコミは、築地から豊洲への移転を報道していますが、建築基準法令違反に関する報道は、ごく一部のマスコミ以外は基本的にゼロです。取材をした記者はいましたが、何か大きな力が働いているのか、報道されることはありません。「マスコミは権力の犬に成り下がったのか!」と叫びたいところです。
日建設計による、この悪質な手口(追認している東京都も同罪である)は、現在係争中の福岡県久留米市の分譲マンションの設計の偽装と手口がまったく同じです。久留米市のマンションの場合は、設計による偽装に加えて、さらに、「施工業者の鹿島建設による数々の手抜き工事(重要な構造上の梁30本の手抜き)」に代表される瑕疵が重層的に露呈しています。鹿島建設の手抜き工事のうち「鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さ不足」は、極めて悪質かつ基本的な施工ミスです(コンクリートの内部にあるべき鉄筋が露出し錆びているのが目視できます)。
鹿島建設は、この久留米のマンションの工事における下請業者である地場の栗木工務店に損害賠償を求めた訴訟において、「極めてずさんな工事」と、下請業者の手抜き工事を激しく非難していることから、元請業者の鹿島建設自らが認める程の酷い手抜き工事であったことが裁判書面において浮き彫りとなっています。このマンションの建設現場に鹿島側の人間が現場監督として常駐していたことを棚に上げ、下請業者に全責任を転嫁し賠償金(和解)を巻き上げたのです。
豊洲市場の設計において偽装を行った国内最大手の設計事務所である日建設計と、九州の地方都市の分譲マンションにおいてずさんな手抜き工事を行ったスーパーゼネコン鹿島建設。この2社は、多くの建築物において名前を連ねるなど、深い関係にあります。共通しているのは、巨大企業の驕りである。如何に巨大企業であっても、不法行為については報いを受けるべきです。
鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さ不足を重大な欠陥として認め、建替え費用の支払いを業者に命じた判例(横浜地裁川崎支部)などがあり、施工業者である責任は免れません。建築基準法令および関係規定は、必要最低限の規定です。この最低限の規定すら満足してない、豊洲市場および久留米市のマンション(鉄筋のかぶり厚不足など)は、基準・規定を満足するよう是正されるべきであり、建築基準法関係規定や建築確認制度が存在している限り、遵守すべきです。今後も、これらの裁判の行方は注目を浴びることになると思います。
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