2024年12月23日( 月 )

シリーズ・地球は何処に向かう、日本人はどうなる(8)~日本式経営の復権、カルロス・ゴーン流経営の破綻からの教訓

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会長首切りのための逮捕

 以前、指摘した通り、今回のゴーン氏逮捕の真相は「ゴーン氏を会長職から引きずり下ろすための策略」である。西川社長を筆頭にした日本人経営陣とルノーの対立軸は「日産のルノーの完全子会社化~統合への発展」をめぐってのものだった。西川社長を含めたトップの危機感は「このままでは日産が消滅させられる」というものだ。

 話し合いを行ってもゴーン氏はルノーによる統合化案を撤回しない。西川陣営は「平和的解決は不可能。法的制裁を加え、何とかゴーン氏の首を取る道はないか?」と必死で調査・研究した。

 西川陣営に“天佑”があったのは、ルノーがフランスの会社だったことだ。もし、ルノーが米国の企業だったなら、東京地検特捜部もこれほど迅速に動かなかっただろう。

 官邸におうかがいを立てたとすれば「アメリカ政府とのトラブルは極力、起こすな!!」と指示が下る可能性があるからだ。相手がフランス政府であればそれほど、配慮する必要もない。「日本を代表する企業『日産』を奪われてたまるか」という強い愛国心が東京地検特捜部メンバーたちに湧いてきたのだろう。仮に数年後、裁判でゴーン氏が無罪となったとしても西川陣営にとっては痛くも痒くもない。

ゴーン氏の致命的な誤り

 ルノーと資本提携する前の日産は労働側=労組会長の絶大な権威・権力を認めており、経営の二重構造がネックとなっていた。また当時は自動車メーカーの国際競争がし烈だった。日産は、その国際戦争に乗り遅れて経営危機に見舞われたのだ。

 そこにゴーン氏が登場した。ゴーン氏は、コストカッターとして、いかんなく辣腕を発揮し、優れた国際感覚で日産の海外進出の基盤を固めた。上記2点はゴーン氏が挙げた成果であり、誰もが認めるところだ。

 ゴーン氏による日産再建の実績が絶大だとしても、これほど長期支配をする権利はないだろう。また、長期支配を許した日本人経営陣たちも情けない。

 ゴーン氏の致命的な誤りの1つにオーナーでもないのに長期間にわたって権力に執着したことが挙げられる。「ルノーによる日産統合策に対し、誰も(日本人の経営陣)逆らわないだろう」という思いあがりにより、判断ミスを犯してしまったのだ。日本でもオーナーではない者が、オーナー然として長期政権に就き、晩年には己の信用を失くしている事例をしばしば見かける。ゴーン氏も同様だったのである。

 もう1つは「銭ゲバで何が悪い!!」と首尾一貫して訴えなかったことである。「皆さま!!私は20億円の報酬をいただくほど貢献をしています」とゴーン流の滑らかな演説をぶたなかったため「有価証券報告書の虚偽記載」で逮捕されるという最悪の事態を招いてしまったのだ。筆者の私見では「年収5億円も10億円も20億円も同じ。5億円位で満足できなかったものか」と考える。

 今後は、ゴーン氏の首を切った西川陣営の行く末が注目される。裁判審理は都合よく進むとは限らない。ゴーン氏の取締役解任も簡単にはいかない状況である。

 西川社長は国際的なルノー・ニッサン・三菱連合を維持発展できるかという再優先課題について解決策を講じられるかが注目される。結論をいえば「無理」というしかない。国内ではどうにかやり抜くかもしれないが、国際的な展開には人材が要る。大物をスカウトする人事が必要だということだ。ゴーン氏を経営から排除できたが、西川社長(支える経営陣たち)が彼と同等以上の経営能力を有しているのか?「ない」というのが率直な感想である。

 経営力とは具体的に方針を固め、実践していく力のことだ。西川社長は、この力においてゴーン氏より劣っているという見立てをしている。今後の対応を誤れば、日産の業績が悪化することもあり得る。

ゴーン流に対して対照的なサンコービルド経営

 ゴーン氏の失敗の要因を2点あげた。(1)「銭ゲバ体質を終始、貫かなかったこと」(2)「権力に執着したこと」である。この失敗は欧米流の考え方に根ざしている。この苦い教訓から改めて日本流経営手法が注目される。日本流の経営とは(1)「銭には欲をかかない」(2)「トップの永久化に歯止めをかける」というものだ。これらを実践している企業を紹介しよう。福岡市博多区の(株)サンコービルド(本社:福岡市博多区、岩野義弘社長)である。

 同社の3月期の業績・要約貸借対照表を添付する。2018年3月期115億円、19年期は132億円を見込んでいる。財務面でも充実ぶりが伺える。

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 「どなたが、旗振り人なのか?」と取引先でも首を捻る。一方で頑固な一面をも備えている。「デベロッパーの分譲マンションは請けない」という受注信念を曲げないということである。

 同社の始まりは三井鉱山の子会社で、親会社の鉱山の土木工事受注から始まった。1972年、三井鉱山堅抗トンネル掘鑿(株)が商号のスタートである。途中、三鉱建設工業に商号変更し、2004年に現商号になる。この三井鉱山の子会社であったことが、現在の社風に色濃く反映しているようだ。特色として(1)「請けた仕事への忠誠心」、(2)「派手さを戒め質素堅実」、(3)「個人プレーを排した集団主義」、(4)「組織内の団結力優先」が挙げられる。

 派手さはないが、気品があるのが特徴である。気品にも色々とあるが、知的気品というものだ。ガサツさが感じられないのである。「やはり日本を代表する企業=三井鉱山の『国に尽くす、品性に維持、集団力』という社風が脈々と流れているのだ」という結論に達した。親会社は倒産してしまい、子会社時代からの社員たちも少なくなった。しかし、組織の風土が伝承されていることには驚くばかりである。

誰でも社長になれる可能性を打ち出す

 同社の前社長・園村剛二氏はサンコーホールディングス社長である。同氏は「昔々、弊社の社長は親会社から社長が出向してきていた。社員たちは、ただひたすら自分の業務に励んできた。任期が終わると社長はいなくなり、新社長が親会社からくる。この繰り返しだったから社長には任期があるものだと社員たちは認識していた。決して社長ポストに執着する人が現れなかった。この慣習は制度化しないといけないと前々から痛感していた」と語る。
制度化というのは引退年齢を明確にするということである。サンコービルドおよび関連会社、持株会社の定年制度を決めるということだ。持株会社社長・園村氏が強調したいことは「社員の誰もが社長になれる可能性があると信じられる社風を築くことが大切だ。私も岩野現社長も一社員から社長になった経歴の持ち主である。次世代へと繋いでいくためには、社長であろうと定年制に拘束される強化・実行体制を敷く所存だ。おかげさまで2代先まで読めるから一安心している」。

 同社にはオーナーという存在がいない。オーナーではないトップが、オーナー気取りになる懸念を制度化することで事前に封殺する手を打っているのには感服する。

 加えて、「質素堅実が弊社のモットーである。俺だけが良い思いをするという思考の持ち主が社長になることはまずない。社員たちの生活・稼ぎのことを心配する者しか社長への道が拓けないということを叩き込むことも重要だ」と強調する。言葉を換えれば“銭ゲバ”ゴーン氏のような人物の登場を食い止める戦略を講じているということである。

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