2024年11月20日( 水 )

筑波大キャンパスに新業態の店舗出店 これからのSM業態の先導に(前)

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(株)カスミ

茨城県を拠点にスーパーマーケット(SM)事業を展開する同社。昨年10月に筑波大学のキャンパス内に出店した「カスミ筑波大学店」が注目を浴びている。国内初となるSM事業の大学キャンパス参入で、すべてのレジでセルフレジの導入を始め、イートインコーナーやテラス席を設置、簡易キッチンも備えた多目的スペース、さらに宅配ロッカーを設置するなど、これからの店舗業態をリードする取り組みを見せている。

全キャッシュレス化

 「セブン-イレブン」「マクドナルド」「スターバックスコーヒー」…、コンビニやファストフード、カフェが、大学のキャンパスに出店するのは、珍しくない時代になった。一昔前の「店は大学生協」というころからは様変わりした。そうしたなかで、筑波大学の「筑波キャンパス」に、2018年10月1日、茨城県を地盤とする有力ローカルスーパーマーケットチェーン(SM)のカスミが出店した。SMがキャンパス内に出るのは初めてのケースだ。

 学生や教職員の福利厚生と利便性の向上のため、筑波大学がカスミに出店を要請し、カスミがそれに応えたもの。背景には少子化にともなう、大学間の学生の奪い合いがあり、より便利で快適な学生生活が送れることを魅力に感じて優秀な学生を確保しようという狙いがある。

 筑波大学の学生・教職員は2万1,987人、道路沿いにあるため一般の人も利用できる大学周辺の500m圏には3,206世帯が住んでおり、ある程度の需要は見込めるが、夏休みなど休暇期間もあり、採算面では厳しいと予想される。

 それでもあえて出店したのは企業の社会貢献。しかし、いたずらに赤字を垂れ流すというわけにはいかない。そこには知恵を絞ってさまざまな工夫をして、店舗を運営していこうというさまざまな取り組みがみられる。今までにない立地で前例のない客層なので、長年培ってきたノウハウは使えない。キャンパス内を歩き回り、徹底的にマーケットをリサーチ、通行量調査も行い、何が求められているかを把握し、従来の発想にとらわれず柔軟に対応した。

 その結果、日曜日は授業がないため定休日にし、営業時間も土祝日は朝10時~夜7時と平日は朝8時~夜9時と、学生の行動パターンに合わせた。日曜日を定休日としたことで、人手不足の時代にもかかわらず、パート・アルバイトの募集には通常より3倍の応募があり、雇用を確保できたという思わぬ副産物もあった。パートの大半を占める主婦は、子どもの学校が休みとなる日曜は働きたくないという思いも強く、SMでの勤務を敬遠する向きもあるが、日曜定休になればそのハードルも解消される。家族と一緒に休日を過ごしたいという願いは正社員も一緒で、働き方改革を考えるうえでも、現実的には難しい問題だが、社会的に議論されるべきだろう。

 ただ、リゾート感覚の建物で SMらしからぬ外観で、広大なキャンパスの一角にある緑に囲まれた一角にあり、店の前には敷地にあった伐採した木でつくったベンチも置かれている。隣接して、地元の人気カフェ「サザコーヒー」もライブラリカフェのイメージで40坪規模で出店している。店内48席、テラス席16席を用意してくつろぎのスペースで、創業当時の焙煎機も置き、バリスタがこだわりのコーヒーを提供している。

 「カスミ筑波大学店」は、キャンパス内という極めて特殊立地だが、キャッシュレスに代表される新たな試みを導入しながら、今後のSMのあるべき姿を追求しようとしており、興味深い店舗である。カスミではオープン後の状況を見ながら手入れてさらにキャンパス需要を取り込んでいき、今回ここで新たに取り組んだことも、店舗の実情に応じて既存店にも水平展開していく予定だ。

(つづく)
【西川 立一】

(後)

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