翔んで上海~現地視察レポート(前)
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日本人はイメージ(情緒)で物事を見る。
風の谷のナウシカの1シーンのような雾霾(スモッグ)の海に潜るようにして上海浦東国際空港に着いた。全長3,600mと4,000mパラレル滑走路2本をもつ24時間全天候対応の国際空港だ。2,800m滑走路一本の福岡空港とはやはりスケールが違う。遠景はかすんでいるものの、冬場ということを考えれば予想以下のスモッグだ。日本で見る報道のような深刻なイメージはない。北京や重慶などの内陸部の都市に比べて沿海部の上海は大気循環が違うせいかもしれない。
このところの中国大都市の変貌ぶりは半端ではない。我が国のそれと比べれば、まさに「十年一日のごとく」という表現そのものだ。空港を利用する人の数もまるで東京の通勤ラッシュ並みだ。内外に航空機を利用して旅する豊かな人がいかに多いかを物語っている。
空港から市内への足は、たいていの空港ではバスや地下鉄、タクシーが一般的だが、ここには時速400kmを超えるリニアモーターカーがある。リニアモーターカーだとバスで1時間かかる市内近郊まで10分もかからないという。料金は当日航空券があれば40元。地下鉄は4元だから少し高いが、所要時間は3分の1だ。日本ではまだ実験段階のリニアモーターカーが、ここでは実用に供されている。
我が国の当たり前は、ほとんどの外国では当たり前ではない。中国でも同じだ。現地通訳の劉さんは40歳の妻と小学生の子どもがいる。上海にきて16年、普通の市民生活を送り税金もきちんと納めている。だが、彼は農村戸籍だ。
農村戸籍者が都会で生活する際には多くの制限がある。まず、子どもが小学生になると農村戸籍の場合、公立の小学校には入れない。私立は例外だが、劉さんの給与ほどの授業料がかかるのだという。だから子どもと妻は四川省にある劉さんの実家に引っ越し、地元の小学校に入学した。戸籍の不公平をどう感じるかと彼に尋ねると、「それは仕方ない」という。なぜなら、すべての国民に戸籍を自由開放すると地方の住民が大挙して都市部に押し寄せ、収拾がつかなくなるからだという。
確かに人口の60%、8憶の国民が一斉に都市を目指せば間違いなくいろいろな歪が噴出する。自己を最優先するのが中国人の国民性だが、そのあたりは冷静に理解しているようだ。
没法子(メーファーズ)という中国語がある。「天下のご法なら仕方ない」という庶民のあきらめを表す昔から中国庶民が使ってきた慣用句のようなものだ。それをいうと劉さんは大きくうなずきながら笑う。
バスで市内に向かうと片道3車線の高速道路沿いに無数の高層住宅と低層住宅が連なる。日本でも都市部では住宅の連なりは当たり前だが、地方のそれはまばらだ。しかし、上海周辺の新築住宅は我々の感覚を圧倒する。農村の立ち退き問題をセンセーショナルに報道する我が国のマスコミだが、現地の極端な発展を見ると中国地方政府の半ば強引なやり方も理解できるような気がする。途中、農地を流れる小さな川に沿って農家が見える。川辺ぎりぎりに建つ家の白い壁にはカビのように黒い斑点が見て取れる。高層住宅と好対照だ。強いものしか生き残れない。まさに資本主義の世界がここにはある。
そんな農村の周辺にはそう大きくないビニールハウスが点在している。上海という大都市近郊の農業の販売市場は極めて大きい。輸送にコストと時間がかからない分、遠隔地から送られる農産物に比べて鮮度、価格とも有利に違いない。そんなハウスの一部は近くの火力発電所からパイプラインで温水を引いて加温しているものもある。
街に入るとそこはもうニューヨークのようだ。鄧小平の夢が現実になっている。五星紅旗が翻る重厚な巨大ビルの連なりを見ていると、日本のバブル期が重ならないでもない。
(つづく)
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