2024年12月28日( 土 )

QRコード決済市場首位争いが過熱 業界最後発のPayPayが早くも業界覇者を狙う好位置へ浮上

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2月12日からPayPayの第2弾100億円キャンペーンが始まった。前回の「総額100億円あげちゃう」キャンペーンは報道やSNSを通じ、日本中を巻き込んだお祭り騒ぎとして伝えられ、PayPayの知名度は一気に押し上げられた。当時、無名といってもよい同社の正体はソフトバンクとヤフーの合弁会社であると知り、その刺激的な宣伝方法に合点がいった人も多いと思う。再び「100億円」を掲げるキャンペーン第2弾だが、その戦略にはしたたかな変化が見られる。PayPayはこのままQRコード決済市場の覇者となるのか。

PayPay、開始4カ月で累計登録400万人を突破

 2月12日からPayPayの第2弾100億円キャンペーンが始まった。昨年12月4日から実施した前回キャンペーンでは、(1)2019年3月31日まで(2)1人1月あたりの付与上限5万円を主な条件に、支払い額の20%をキャッシュバック(正確には相当額のPayPay残高を翌月付与、以下同じ)と、支払い都度抽選して、10~40回に1回の確率で支払全額(上限10万円)のキャッシュバックを2大特典とした「総額100億円あげちゃう」という看板を掲げ日本中の射幸心を大いに煽ってくれた。

 開始直後から、PayPayが利用できる家電量販店で消費者が我先に高額な買い物する姿と、取扱店の売上の激増が連日報道された。また全額キャッシュバックに当選したという消費者のSNS投稿は次々と拡散され、乗り遅れた企業、消費者を焦らせた。

 消費者・事業者両面から日に日に加熱した結果、予測より大幅に早く還元額が100億円に達し、キャンペーンは開始10日間で終了した。大きなけん引役となることを期待された年末商戦が本格化する前の12月13日のことであった。

 18年10月にサービス開始したばかりのPayPayはこうして一気に知名度を上げた。親会社であるヤフー(株)の第3四半期発表では、「累計登録は、サービス開始4カ月で400万人を突破」と発表した。

業界首位争いの歴史からPayPayは何を学び仕掛けたか

 第2弾キャンペーンでは、前回同様の「100億円」を掲げ、さらなる利用者拡大を狙うが、その戦略には変化が見られる。利用者拡大を後押しするのは、利用できる店舗数と業態の拡大である。

 前回は家電店での爆買いなどが話題になった一方、客単価の低い店舗ではそれほどの過熱は見られなかった。あまりの高率還元に消費者の意識は高額品購入に向かったのだ。今回キャンペーンでは「1回の支払いにおける付与上限を1,000円」「期間中の合計上限を5万円」と条件を変更した。利用者が高額品や家電品を扱う一部の企業に集中することを避け、消費者側から飲食店やコンビニなど少額支払の店舗へも利用欲求が広がるように仕掛けた。 

 各業界においてはシェアNo1企業が圧倒的な優位性をもつ。インフラ分野では先頭集団に属していないと事業採算性から退場を余儀なくされることも多い。普及に必要なハード・ソフト両面での選択を、市場すなわち関連事業者および消費者に求めることになるからである。

 家電業界で1970年代後半から起こった家庭用ビデオ規格における「VHS・ベータ戦争」ではSONY率いるベータ陣は、性能面での優位が伝えられながらもVHS陣に敗れた。その代償は大きくハード市場からは撤退したうえに、わずかに残ったユーザーへのアフターサービス維持のため、ソフト部門を不採算のまま長期抱えることとなった。

 この決着には関連事業者が大きく絡んでいる。当初、映像ソフトメーカー各社は両規格ともに対応していたが、シェアがわずかにVHS優勢へ傾くのをみるや、すかさず販売用・レンタル用ともにVHS規格に一本化した。これにより消費者はベータを見限り、牙城は瞬く間に崩れた。あっけない結末となった。消費者は使えない規格、サービスは要らないのだ。その後もBlueRay対HD-DVDによるDVD後継規格争いや、iPhone対androidなど、現在に至るまで同様の規格争いや首位争いは繰り返され、敗者は消え去っている。

事業者囲い込みで独走状態を狙えるか

※ 日本能率協会総合研究所 ←日本国内のQRコード決済市場
※クリックで拡大

 2016年にはほぼ0であったQRコード決済も18年には各社の本格参入や、キャンペーンなどにより周知が進んだ。日本能率研究所はQRコード決済の市場規模は19年には6,000億円、23年には8兆円になるという推計値を公表している。

 またMMD研究所が19年2月に発表した「QRコード決済サービスの利用に関する調査」(調査期間1/8~10)では、「現在利用している」率が最も高かったのが楽天ペイで9.4%、以下PayPay8.1%、LINEPay7.9%と続く。当時最後発でありながらPayPayは2位に躍進している。また「利用を検討している」率で、LINEPay、楽天ペイを大きく引き離したのはPayPay9.5%。PayPayの首位奪取もみえてきた。

※ MMD研究所 ←利用状況
※クリックで拡大

 現在のテレビCMでは、LINEは送金機能や割り勘機能など利用者側の利便性をアピールしているのに対し、PayPayは第2弾キャンペーンと時期を同じくして、「最短翌日入金」「決済手数料ゼロ※期間限定」を打ち出し、最後に「頼むから入れて」のセリフで締める印象的なCMを流した。キャッシュバック条件の変更と合わせて、関連事業者へ向けたアピールに力を注ぐ。

 前述のビデオ規格争いにおいても、関連事業者の取り込みが結果として消費者利益につながっていることは明らかで、各事業者は業界内でのシェア拡大を第一義として首位を狙っている。

 いよいよ今春参入予定としているセブン&アイグループが、2万超の店舗を有することを考えれば、参入と同時に台風の目となることは間違いない。PayPayの今後の躍進は、それまでに追随を許さない独走状態を、いかにつくれるかが鍵となってくるだろう。

【吉田 誠】

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