世界を変える「ブロックチェーン」と日本発の可能性(3)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
アメリカとインド
ブロックチェーンは無限の可能性を秘めた新技術である。その応用範囲は広い。たとえば、「消費者に無駄足させない」という意味での在庫管理の徹底や食品や薬のトレースにもうってつけと目されている。なぜなら流通経路がすべて追跡できるからである。偽物を排除するうえでは欠かせない技術といえる。
上海のVeChina財団では薬品ワクチン追跡(トレース)システムを開発した。中国では近年、ワクチン・スキャンダルが頻発し、子どもたち25万人が被害に遭うなど大きな社会問題となっているほどだ。偽のワクチンが流通し、監督官庁への不信が高まっている。
最近では武漢の国営会社が40万個の悪品質のワクチンを販売したかどで営業停止に追い込まれたばかりである。そのため、20年までに医薬品のトレース体制を完備するため、政府主導で個別のワクチンにすべて番号を付けることになった。これを可能にするのがブロックチェーン技術にほかならない。
実は、VeChinaは(株)NTTドコモとも提携している。なぜなら、次世代通信「5G」の分野においてパートナーとして共同開発を目指しているからだ。同社はほかにも(株)三菱UFJ銀行、(株)朝日新聞社、東京海上日動火災保険(株)、ソニー(株)、アステラス製薬(株)、沖縄県などとも次世代通信技術の開発と普及に向けて関係の強化に取り組み始めた。何かと話題の5Gであるが、ファーウェイに限らず、中国企業の技術的優位性が突出している結果といえるだろう。
もちろん、アメリカも負けてはいない。フェデックスは医薬品メーカーのGood Shepherd Pharmacy と提携し、ブロックチェーンを生かしてがん患者を救済する取り組みを進めている。具体的には、メンフィス大学の協力でがん患者の未使用の薬を経済的に貧しい患者に提供するシステムを構築。同大学のあるテネシー州だけで年間1,000万ドル分の有効な薬が破棄処分されているからだ。テネシー州での実証実験を経て、フェデックスは世界規模でサプライチェーンを革新する動きにつなげようとしている。いわば、ブロックチェーンを活用した新たな運送企業同盟を結成しようというわけだ。
さらに注目すべきはインドである。中国、韓国に対抗し、国内初の「ブロックチェーン・シティ」の創設への動きを加速させているからだ。構想が進むのはインド南部の主要都市ハイデラバード。この新規プロジェクトにはカナダも協力を表明している。すでにインドはすべての国民を対象にしたIDカードを発行しており、身分証明と納税、金融サービスが一体化するIT先進国である。日本のマイナンバーと比べ、はるかに普及が進んでおり、さらなるIT強国を目指すインドの面目躍如といったところであろう。
実は、世界には今や50億人を超える難民や差別を受けている住民がいる。彼らの大半は自分の存在を立証できる十分な身分証をもっていない。そこで、こうした貧困層の人々を救済するためにブロックチェーン技術を応用しようとする動きが生まれつつあるわけだ。インドではいまだカースト制度の残滓もあり、貧富の格差も完全には解消されていない。
しかし、あと数年で中国を抜き、人口では世界No.1の座を射止めることが確実視されているのがインドである。いわゆる中間層のもつ購買力ではすでに中国を圧倒する潜在力を見せるほど。こうした消費者の行動を支援する意味でもブロックチェーン技術に期待が高まる一方だ。インドではブロックチェーン・シティを皮切りに世界の貧困層を救うシステムを構築しようとしており、その大胆な発想には「未来の大国」らしさを感じさせられる。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸 (はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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