2024年12月24日( 火 )

東京に進出して35年-時代に振りまわされず、やるべきことをするのみ~手島建築設計事務所(4)

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何があっても後ろを振り返えらず前に進んできた

町田市成瀬コミュニティセンター外観

 (株)手島建築設計事務所が東京で仕事を始めて35年になるが、新しい場所で事業を始めたことを苦労と感じたことは一度もないと代表取締役会長・手島博士氏はいう。

 新しい場所で事業を始めると、勝手がわからず慣れないことの連続だから、軌道に乗せるまでには時間がかかるものだ。取り組んだことが成功するときも失敗するときもあるが、過去を引きずると人は前に進めなくなる。

 だから、何があっても後ろを振り返らずに、失敗も人生の糧と感じて手島会長は前に進んできた。いまできることは何かを考えて、前だけを見て誠意をもって仕事をしてきたところ、だんだん結果がついてきたという。

東京オリンピック後の建設業界の景気はどうなる?

 建設業界では、いまの東京の好景気はバブルに似ているともいわれていて、東京オリンピックにむけて新しい建物をつくる仕事が多く、どの企業も忙しくしているという。しかし、いまの建設業界の好景気はバブル期と同じようにみえて、実はかなり違うと手島会長は考えている。

 今回の東京オリンピックが終わるとつくられる建物の数は減るが、バブルが崩壊したときのように建設業界の需要が急激に減り、多くの会社が倒産するようなことは起こらないと手島会長は予想している。

 バブル期は、投資用のビルやマンションがたくさん建てられていたが、いまは企業の予算やコンプライアンスも厳しくなり、バブル期のように何でもつくれる時代ではない。投資用の物件よりも、ニーズがあるビルやマンションがつくられる割合が増えたため、東京オリンピック後も建設業界への影響はそれほど大きくないという。

 もちろん、好景気の建設業界のなかにあっても時代の波に流されることなく、手島建築設計事務所は着実な姿勢で歩みを進めている。手島会長は業界やまわりの状況をみて一喜一憂するよりも、自社でやるべきことを実行するのみだと考えているからだ。

建物には社会を大きく変える力がある

 人はもっている器で、これからの可能性が決まると手島会長は考えている。どんなオフィスで仕事をして、どんな家に住むかは、企業経営や人の暮らしの将来を左右するということだ。

 たとえばオフィスなら、大きなオフィスをつくるとスタッフが仕事するスペースを広く取れる。聞いただけでは不思議な話だが、これまで事務所を引っ越してオフィスを大きくしてきた経験から、オフィスを広げると空きスペースができて、そのスペースに合わせて人が増え、仕事も増えたという。事業が広がるスケールとオフィスの規模は同じということだ。

 だから、何かを始めるときは、まずその場所となる器を決めることが大切だと手島会長はいう。大きなオフィスをつくることは将来の可能性を信じることで、そのビジョンがあるからこそ、チャンスが生まれて可能性が現実のものになる。逆にいうと、自分が信じる可能性を限定してしまうと人はそれを越えることはできないため、オフィスの規模より大きな事業は生まれないともいえる。

 建物には、社会を大きく変える力があると実感しているため、使う人や住む人のためになる建物を設計し、暮らしやすい社会をつくることが設計事務所の使命だと手島会長は考えている。

言葉で教えるよりも、仕事を見て感覚で覚えることや経験が人を育てる

 手島建築設計事務所は現在、東京本社に約20名、全国で約50名の社員が仕事をしている。建物の設計は、建物をつくる技術や知識を身につける専門的な仕事だが、どのように人材を育てているのだろうか。

 新しく社員が入社したときは、言葉で伝えるよりも現場で仕事を見せて、自分の感覚を使って仕事を覚えてもらっていると手島会長はいう。設計は、建物の“かたち”を決める仕事だ。“かたち”は言葉で伝えきれるものではなく、目で見て自分の感覚で気づき、初めてわかるものだ。だから、言葉で教えることよりも、見せて伝えることを大切にしているのではないだろうか。

 そして経験を積んで一人前の建築士になったら、1つのプロジクトを1人のスタッフに任せるようにしている。建物のプランを考える段階から、完成するまで、設計事務所の仕事のすべてを1人で担当するということだ。自分のプロジェクトをもつことで前向きに課題に取り組み、建築士として責任をもって仕事をする姿勢を身につけてほしいからだ。また、設計の仕事は、建物の部分的なデザインを決めることだけではなく、建物全体を見渡せる広い視点も必要だ。プロジェクトを1人で担当することで、それぞれの仕事のつながりが見えるようになり、建物全体としての設計のバランスがわかるようになると考えられる。

 設計の仕事は、本人のやる気次第で専門技術や知識をどれだけ自分のものにできるかが決まるという。プロジェクトの責任者として実際に自身で設計するという経験を通して、多くの技術やデザインのアイデアを学んでほしいと手島会長は考えている。

(つづく)
【取材・文・構成:石井 ゆかり】

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