森林セラピーの第一人者・日本医科大学の李卿医師~森林浴の抗ストレス作用・免疫活性を科学的に解明(中)
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――「チコちゃんに叱られる」では、李先生が行った実証実験の概要が紹介されていましたが、具体的にどのような方法で実験を行ったのか、詳しくお聞かせください。
李 最初の実験は05年9月に、NPO法人森林セラピーソサエティが認定した森林セラピー基地「心のふるさと信州いいやま」(長野県飯山市)で行いました。大手企業に勤める健常男性(35~56歳)12名に、2泊3日で滞在してもらい、NK活性や尿中アドレナリンへの影響を調べました。現地では1日に5kmの遊歩道を4時間かけて散策してから採血し、事前に採取していた血液データと比較しました。また、普段の生活と違う環境に身を置くと、心身が刺激され元気になるという「転地効果」がありますので、これと比較するため、同じメンバーに東京―長野間とほぼ同じ距離にある緑の少ない地方都市に2泊3日滞在してもらい、森林浴実験と比較してみました。
その結果は、森林浴実験ではNK細胞数と、NK細胞内の抗がん蛋白質のレベルが有意に増加し、ストレスホルモンであるアドレナリンは低下することがわかりました。これに対し都市旅行の実験ではNK活性にほとんど影響がなく、尿中アドレナリン濃度の減少も認められなかったのです。つまり、NK活性やNK細胞数の増加は森林浴による効果であることが証明されたのです。
森林浴実験は、06年9月に長野県上松町の「赤沢自然休養林」、07年9月には長野県信濃町の「信州・信濃町 癒しの森」でも同様の実験を行っていますが、いずれも飯山市と同様の結果が得られています。「癒しの森」で行った実験には大学病院に勤務する女性看護師13名(25~43歳)に参加してもらいましたが、特徴的だったのは、尿中ストレスホルモンの減少率が男性モニターに比べて7割近くも下がっていたのです。
森林浴実験の結果で驚いたのは、実験終了後1カ月が経過してもNK細胞数などが高いレベルを持続していたことです。これは月に1回程度森林浴をすれば、その効果が長期間維持できることを意味します。
我々は、経験的に知られている森林浴のリラックス効果についても検討しました。一般に、人はリラックス状態になると末梢血管のリンパ球が増え、アレルギー反応に関与する顆粒球が減少することが知られています。森林浴はリンパ球の割合を増加させ、顆粒球の割合を減少させ、間接的にリラックス効果をもたらしていると考えられます。また、森林浴では尿中のアドレナリン濃度が減少しましたが、これはリラックスしてストレスが減少した最も重要な証拠だといえるでしょう。
(つづく)
【吉村 敏】<プロフィール>
日本医科大学リハビリテーション学分野医師 李 卿 氏(リ・ケイ)
1984年、中国・山西医科大学卒業。医学博士。日本医科大学リハビリテーション学分野医師。森林医学研究会代表世話人。国際森林・自然医学会副会長・事務局長。NPO法人森林セラピーソサエティ理事。99年、日本医科大学助手を経て同大学講師、2012年に同大学准教授。01年、米国スタフォード大学医学部留学。現在、日本医科大学リハビリテーション学分野で臨床と研究に携わる。07年3月、森林浴・森林セラピー研究を推進し、森林医学の進歩をはかることを目的に、林野庁、森林総合研究所、ほかの関連学会と連携して森林医学に関する研究を行う「森林医学研究会」を立ち上げ代表世話人に。企業・大学・自治体などに森林浴・森林セラピーを議論するプラットホームを提供し、森林浴・森林セラピーを国民に広く普及することで、日本の森林資源の有効活用と、国民の健康維持・増進に寄与している。
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