レアアース問題の深層(前)
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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏
一時期沈静化に向かっているように見えた米中貿易戦争だが、アメリカの追加関税措置の発表で、一挙に状況が緊迫してきた。
アメリカは、なりふり構わず中国を潰しにかかろうとしている。貿易戦争からスタートした米中の衝突は、ますます激化しそうで、米中両国だけでなく、世界経済全般への悪影響が懸念されている。
中国は経済規模、先端技術力で、10年以内に米国を追い抜くことが予見され、米国は中国が覇権に挑戦することをあきらめさせ、経済規模で米国が中国に抜かれることを阻止しようとしている。米国は経済規模で米国の40%に肉薄した日本を潰しにかかったことがあるが、中国は経済規模(GDP)において、2017年の時点で米国の63.2%となっているので、もっと深刻な脅威と言わざるを得ない。このペースで行くと、2023年から2027年の間に、中国はアメリカを抜いて、世界一の経済大国となるとされている。
先端技術力においても、中国の台頭には目を見張るものがあり、それは米国にとって深刻な脅威になりつつある。先端技術の指標となる特許出願件数の統計を見ると、米国は5万6,624件で1位となっているが、2位の中国も4万8,882件で、1位の米国を僅差で追いかけている。
このように貿易戦争が激化しているなかで、中国は米国への対抗策として、レアアースの輸出制限を検討しているようだ。米国はレアアース需要の80%を中国からの輸入に依存しているので、中国がレアアースの輸出制限に踏み切ると、米国は貿易戦争の新たな局面に直面することになる。
レアアースの輸出制限には前例がある。尖閣諸島をめぐる問題で緊張が高まった2010年に、中国が日本に対するレアアース(希土類)の輸出を制限したことは記憶に新しい。中国政府がレアアース(希土類)を米中貿易戦争の切り札として使う可能性についてのニュースが流れ、中国産レアアースの価格は数年来で最高レベルに達しており、今後さらに上昇する見込みだ。
レアアースの輸出制限が現実化すれば、米国のハイテク産業、軍需産業への影響は避けられない。今後、先進各国では代替材料の開発などに乗り出すことになるだろう。今回はレアアースについて取り上げてみよう。
レアアースとは、元素記号57番から71番までで、 地中に低濃度で存在する17種類の元素の総称である。レアアース17鉱種のうち、、原子番号の小さな鉱種は「軽希土類」、原子番号の大きな鉱種は「中・重希土類」、2種類に区別される。「軽希土類」としては、セリウム(Ce)、ネオジム、サマリウムといった元素があり、「中・重希土類」には、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウムなどがある。
「軽希土類」は、世界的にも広く分布している。今後開発が進めば、新たな鉱床も発見される可能性が高く、中国以外のレアアースの供給源を確保することは不可能ではない。一方、「中・重希土類」は中国南部の鉱床に偏在しており、中国からの供給に頼らざるを得ない状況である。
中・重希土類の用途は、電気自動車のモーターや原子炉の中性子遮蔽材に活用される鉱物で、世界中が欲しがっている鉱物資源なのだ。レアアースは化学的に安定していて、熱と電気がよく通るので、電気、電子、光学分野に広く活用されている。とくに、スマホ、電気自動車などの先端製品の製造には欠かせない素材となっている。電気自動車1台に必要とされているレアアースの量は約1kgである。
(つづく)
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