アスクルとの試合に勝って勝負に負けたヤフー~「ガバナンス(企業統治)に違反する」と大炎上(後)
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独立社外取締役をバッサリ切り捨てる
独立委員会の反撃を受け、ヤフーは一気に勝負に出た。
ヤフーは7月24日、アスクルが8月2日に開く株主総会で、すでに反対している岩田彰一郞社長の再任に加え、独立役員の社外取締役3人の再任にも反対し、ネットで議決権を行使したと発表した。
独立社外取締役は、戸田一雄氏、松下秀明氏(東大名誉教授)、斉藤惇氏の3人。斉藤氏は、東京証券取引所社長、日本取引所グループCEOを務めた証券界の重鎮で、現在、日本野球機構コミッショナー。岩田氏については「低迷する業績の回復、経営体制の若返り」、社外取締役3氏については「岩田氏を任命した責任」などを理由にして反対した。
ヤフーは、残る独立役員ではない社外取締役・今泉公二氏(プラス社長)、小澤隆生氏(ヤフー取締役)の再任には反対していない。
ヤフーの岩田社長の退陣要求を「ガバナンス無視」と非難した独立社外取締役を排除することが眼目だ。
アスクルはヤフーに対抗できる切り札をもっていた。両社の提携契約には、重大な違反があった場合は、ヤフーがもつアスクル株の売り戻しを請求できる条項がある。
アスクルは7月26日、定時株主総会の前日の8月1日に取締役会を開くと発表した。取締役会では、ヤフーが保有するアスクル株の売り渡しを請求するかどうかを審議し、決議する。岩田氏はすでに、株式の売り渡しを受ければ、ファンドなどに引き受けてもらうことを検討していることを明らかにしている。
ヤフーの社外取締役3人の再任反対は、これに備えたものだ。取締役会で、アスクル株の売り渡し請求を決議しても、翌日の株主総会で、岩田氏と3社外取締役は再任されない。総会後の取締役会で、前日の決議を撤回することができる。独立社外取締役の再任に反対した真の狙いはここにある。アスクルは泥沼化を避けるため、取締役会ではその議題を延期した。
ヤフー非難の大合唱
ヤフーの強硬策に市場関係者から猛烈なバッシングが浴びせられた。企業法務を研究する団体が相次いで懸念の声明を出した。
独立社外取締役の再任拒否をめぐっては、日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(理事長:牛島信弁護士)が「独立社外取締役の判断が自らの判断にそぐわないからといって、支配株主が再任を拒絶できるのであれば、独立社外取締役は支配株主の意向をうかがうことになり、期待される役割を果たせなくなる」と指摘した。
日本取締役協会(会長:宮内義彦オリックスシニア・チェアマン)は「独立取締役を緊急性も違法行為もない状態で解任できるのであれば、ガバナンスの基本構造は成り立たなくなる」と批判した。
金融庁のスチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議の委員を務めていた、コンサルティング会社、経営共創基盤の冨山和彦CEOは、毎日新聞(8月2日付朝刊)に『親子上場問題、ほらみたことか』の一文を寄稿した。
「上場子会社であるアスクルの独立社外取締役の最大の責務は、支配的な大株主から少数一般株主の利益を守ることにある。
破廉恥行為や背任的行為がない限り、そのクビを大株主自身が切るのはタブー中のタブ。明らかに経済産業省の企業統治ガイドラインの趣旨に反するし、これで独立社外取締役がゼロになると、金融庁の企業統治指針はもちろん、会社法上も大きな瑕疵(かし)がある状態を生む。かかる状況をつくり出したヤフーの経営陣の責任は重い」
「ヤフーはガバナンスに違反している」という非難の大合唱だ。市場の総元締だった斉藤氏さえあっさりクビにしたのだ。
これには、「ヤバイ」と思ったのだろう。ソフトバンクグループの総帥、孫正義氏は、ヤフーの一連の手法に、「反対」を表明した。孫氏の意向を“忖度”して、強行突破したヤフーの川邊健太郎社長にしてみれば、ハシゴを外された心境だろう。
アスクルは、独立社外取締役を新たに選ぶため、臨時株主総会を開催する。親会社から完全に独立し、少数株主の保護に撤する社外取締役を選ぶか。ヤフーにとっては、汚名返上への試金石となる。
(了)
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