大戸屋HD、創業家と経営陣のお家騒動が終結~創業者が最も留意すべきは相続税だ!(前)
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創業家と経営陣が対立する内紛は後を絶たない。定食チェーン「大戸屋」を運営する大戸屋ホールディングスのお家騒動にようやく幕が下りた。この騒動は、創業者たちに深刻な問題を改めて突き付けた。なぜならば最大の対立点が相続税の問題だったからだ。
大戸屋を去った御曹司は高齢者向け宅配会社の社長
外食大手のコロワイドは10月1日、大戸屋ホールディングス(HD)に出資したと発表した。コロワイドは大戸屋HDの創業家である三森三枝子氏(保有比率13.07%)、息子の智仁氏(同5.60%)から全株式を取得、発行済み株式の18.67%を保有する筆頭株主となった。取得額は約30億円。
大戸屋HDは実質創業者の三森久実前会長が15年7月に急逝して以降、息子の智仁氏の処遇や功労金の支出をめぐり、経営陣と筆頭株主の創業家が対立してきた。保有株式の全株の売却によって創業家は大戸屋と縁が切れた。
長年の懸案が解決して、経営陣はハッピーかというと、さにあらず。コロワイドの創業者の蔵人金男会長は剛腕の持ち主だ。小さな居酒屋から出発して、焼き肉の牛角、ハンバーガーのフレッシュネス、回転すしチェーン「かっぱ寿司」のカッパ・クリエイトなどを次々と買収。2019年3月期の連結売上高は2,443億円と外食大手の一角を占める。
コロワイドは14年に300億円を投じ、居酒屋主体から総合外食企業に向け、社運をかけカッパ・クリエイトを買収した。かっぱ寿司の再建のための荒療治は凄まじく、3年間に4人社長交代させたほどだ。
大戸屋HDの19年3月期の連結売上高は257億円。既存店売上高が前年割れを続けるなど苦戦。立て直しが急務となっている。コロワイドが株を買い増し、傘下に組み入れ、再建に取り組むのは確実だろう。大戸屋HDの経営陣にとって、一難去ってまた一難だ。
一方、大戸屋を去った智仁氏は、スリーフォレストという新興の宅配サービス会社の社長になった。介護を必要とする高齢者が簡単に外食チェーンのメニューを注文して受け取れる「ハッピーテーブル」というサービスだ。高齢者向け宅配サービスは激戦区だ。最後発のスリーフォレストがどこまで食い込めるか。首を傾げる向きが多い。
お家騒動の果てに、経営陣、創業家ともに、ハッピーエンドとはならなかった。
両者の間で、何が亀裂をもたらしたかを振り返ってみよう。
三森久実氏の急逝が対立を招く
15年7月28日、大戸屋HD会長・三森久実氏が肺がんのため死去した。57歳という若すぎる死だった。久実氏の急逝が、創業家の御曹司・三森智仁氏(30)と窪田健一社長(49)ら経営陣の対立を招くことになる。
久実氏は外食産業で成功した立志伝中の人物だ。57年11月、山梨県に生まれる。15歳のとき、東京・池袋東口で大戸屋食堂を経営する伯父、三森栄一氏の養子になる。58年に栄一氏が始めた大戸屋食堂は「全品50円均一」という安さが売りの大衆食堂だった。
養父の死にともない、79年に久実氏が店を継いだ。さまざまな失敗を繰り返し、92年に全面改装し、女性が気軽に入れる新しい定食店のスタイルを確立した。これが大当たり。01年に日本証券業協会に店頭登録(現・東証JASDAQに上場)した。
いち早く、海外に進出。タイや台湾は人気店で、大戸屋は海外に進出した日本食の“勝ち組”と言われた。11年7月、持株会社体制に移行、大戸屋HDに商号を変更した。
会長兼社長・久実氏は海外に軸足を移し、米国進出の陣頭指揮を執るため、12年4月、窪田健一氏を社長に起用した。健一氏は久実氏の母方の叔母の息子で、久実氏とは従兄弟関係にあたる。埼玉県生まれで、東洋大学法学部卒。食品スーパーのライフコーポレーションに入社。独立心は旺盛で、ライフを退職し、自営業で八百屋を始めたが失敗。
埼玉の実家に舞い戻り久実氏に相談した。「世の中甘くないぞ」とこっぴどく叱られた。96年大戸屋に入社。親戚でも生易しくしない、という久実氏の意向で、店舗の現場からスタートした。その健一氏に、久実氏は社長職を譲った。
久実氏は14年7月に末期のがんが発覚。それ以降、死期を悟り、自らの死後を見据えて2つの大きな決断をする。1つはカネの問題。死後に発生する相続税対策としての功労金だ。役員退職慰労金を廃止しており、相続制を支払うカネは功労金から出すしかない。
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大戸屋ホールディングスもう1つは世襲の問題だ。若い息子の智仁氏を、自分の目が黒いうちに後継者に据えることだ。智仁氏は中央大学法学部卒業。三菱UFJ信託銀行を経て、13年4月大戸屋HDに入社。死期を目前にした久実氏は智仁氏を役員にすることを窪田氏に迫った。
これを受け入れ15年6月25日、大戸屋HDの株主総会で、智仁氏は常務取締役海外事業本部長に就任。その1カ月後の7月27日、会長・久実氏が死去した。
功労金と世襲の2つが、創業家と窪田氏ら経営陣の対立の火種となった。
(つづく)
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