監訳者に聞く 「MMT(現代貨幣理論)」とは何か?(1)
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経済評論家((株)クレディセゾン主任研究員) 島倉 原 氏
「MMT(Modern Monetary Theory、現代貨幣理論)」とは何か。一部のメディアや経済評論家からは「トンデモ理論」「論外」などとほとんど全否定されているが、支持者たちは「MMTは単に事実を指摘したに過ぎない」とまったく譲らない。そんななか、8月末に『MMT現代貨幣理論入門』(東洋経済新報社/以下、『MMT入門』)が出版された。同書は、MMTの中心的人物である米国の経済学者ランダル・レイが執筆したMMTの入門書を日本語に訳したもので、MMTの主張をそのままのかたちで伝えた文献としては日本初のものである。これまでは、MMTの主張の一部を切り取った(場合によっては歪曲した)かたちで空中戦のような議論が繰り広げられてきたが、こうした書籍が世に出たことで、今後は地に足のついた議論が期待される。今回は、同書の監訳を担当し、また12月にはMMTを解説した著書『MMTとは何か―日本を救う反緊縮理論』(角川新書)の出版を予定している経済評論家の島倉原氏((株)クレディセゾン主任研究員)に、MMTのポイントなどについて話を聞いてきた。
貨幣や財政の「現実」を説明するMMT
――MMTとはどういう理論でしょうか。
島倉氏(以下、島倉) MMTには2つの側面があります。まず1つは、貨幣や財政が現実にはどのようなものであるかを説明する理論としての側面です。もう1つは、そうした現実に基づいて、「経済政策はこうすべきである」と提言する理論としての側面です。
『MMT入門』の帯にもあるように、MMTの主張として、以下の3点があげられます。1つ目は、日本や米国のように「通貨主権」を有する政府は、「自国通貨建て」で支出する能力に制約はないというものです。
「通貨主権」とは、自国通貨を固定レートで金(きん)や外貨と交換する約束をしていない、すなわち変動為替相場制を採用していることを意味します。こうした政府は自国通貨をいくらでも発行できるので、デフォルト(債務不履行)を強いられるリスクはありません。従って、「財政赤字や国債残高を気にするのは無意味」という結論になるのです。
次に、政府にとって、「税金は財源ではなく、国債は資金調達手段ではない」というものです。一般的には、政府は税金や国債発行によって通貨を入手し、それを支出に回していると考えられています。しかしながら、その通貨は、発行主体である政府がその前に支出を行わなければ、世の中に存在しないものです。
従って、政府が先に通貨を支出しない限り、民間部門は税金を納めることも、国債を購入することも論理的に不可能である、というのがこの命題が意味するところです。さらにここから、「税金は所得、国債は金利に働きかけ、経済を適正水準に調整するための政策手段」という結論が導き出されます。
ここまでは、現実を説明する理論としてのMMTです。3つ目は、経済政策論としてのMMTの主張です。人々の経済的満足と安定した社会を実現するため、政府は「完全雇用と物価安定」という公共目的を追求すべきであるというのが、MMTの主張です。そして、通貨主権を有する政府には自国通貨建てで無限の支出能力があります。MMTはこのことから、政府自らが「最後の雇い手」となり、希望する人々全員を、一定以上の賃金で雇うことを約束する「就業保証プログラム」の実施を提唱しています。
就業保証プログラムの下では、不景気で失業者が多い時には政府が雇用を増やして経済の支えとなり、好景気の時には政府による雇用が自然と減って経済の過熱を抑制することになります。MMTはこのことから、就業保証プログラムを「強力な経済安定装置」と位置付けています。
(つづく)
【大石 恭正】<プロフィール>
島倉 原(しまくら・はじめ)
(株)クレディセゾン主任研究員。1974年、愛知県生まれ。97年、東京大学法学部卒業。(株)アトリウム担当部長、セゾン投信(株)取締役などを歴任。経済理論学会および景気循環学会会員。会社勤務の傍ら、積極財政の重要性を訴える経済評論活動を行っている。著書には『積極財政宣言─なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論)など。<まとめ・構成>
大石 恭正(おおいし・やすまさ) 立教大学法学部を卒業後、業界紙記者などを経て、フリーランス・ライターとして活動中。1974年高知県生まれ。 Email:duabmira54@gmail.com関連記事
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