2024年11月23日( 土 )

三菱重工は創業地の主力造船所を売却~日本製鉄から発祥の八幡製鉄所の名前が消える(後)

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八幡製鉄所の名称は「九州製鉄所八幡地区」に変わる

 鉄の街、北九州市を象徴する「八幡製鉄所」の名称が消える。これは衝撃的な報道だった。

 日本製鉄は国内の製鉄所を再編。吸収合併する完全子会社の日鉄日新製鋼を含め、国内に16拠点ある製鉄所や製造所を2020年4月に6製鉄所に集約する。

 鹿島製鉄所(茨城県鹿嶋市)と君津製鉄所(千葉県君津市)などを統合し「東日本製鉄所」とするほか、八幡製鉄所(北九州市)、大分製鉄所(大分市)、チタン事業部光チタン部(山口県光市)をまとめて「九州製鉄所」に改め、近代製鉄発祥の地である八幡製鉄所の呼称は「九州製鉄所八幡地区」に変える。

 製鉄所そのものの統廃合は「現時点では考えていない」としているが、業界では「統廃合」の布石と受け取られた。日本製鉄は旧新日本製鉄と旧住友金属工業との合併にともない、高炉がある製鉄所は8カ所になった。JFEスチール(4カ所)の倍だ。

1901年、官営八幡製鉄所東田第1高炉に火入れ

 日本の近代製鉄業は1857(安政4)年12月、岩手県の釜石で、日本初の洋式高炉が操業を開始したことに始まる。黒船来航の翌年のことで、徳川幕府は海防を固めるために、大砲鋳造の材料となる大量の鉄を必要とした。その後、明治新政府は釜石に官営の鉱山と製鉄所を建設するも軌道に乗らず、民間に払い下げられた。1887(明治20)年、釜石田中製鉄所として再スタート。現在の日本製鉄釜石製鉄所の前身だ。

 1894(明治27)年、日清戦争が勃発し、軍艦や工場建設のために鉄鋼需要が増大した。しかし、国内生産量は極めて少なく、鉄鋼業の発展を期待する声はしだいに熱を帯び、日清戦争を契機に、その振興が急務となった。1896(明治29)年の第9回帝国議会で官営製鉄所建設案が可決した。

 翌1897(明治30)年、背後に筑豊炭田を控え、海陸輸送にも便利な福岡県八幡村枝光(現・北九州市八幡東区)を建設立地に決定。工場の建設に約4年の歳月を費やした。建設資金は日清戦争で得た賠償金で賄われた。

 1901(明治34)年2月5日、官営八幡製鉄所東田第一高炉の火入れ式が行われた。日本最初の大型160t高炉に歴史的な火入れをして操業を開始。これが日本製鉄八幡製鉄所の前身である。

君津製鉄所、大分製鉄所の発足で八幡製鉄所は衰退

 八幡製鉄所は戦前と戦後の高度成長期にわたり「鉄は国家なり」を体現した。

 「七色の煙、われらの誇り」。旧八幡市の市歌だ。八幡市は、高炉から立ち上る煤煙で空が七色に煙ることを繁栄のシンボルとして自慢した。5市統合で発足した北九州市は、官民一体で公害ゼロに取り組み、日本一の降下煤塵を記録した北九州市の空は、1987年に環境庁から「星空の街」に選定されるまでに改善した。

 八幡製鉄所の衰退は、1960年代後半に、千葉県君津市に大規模新工場が完成したことがきっかけで、工員やその家族など2万人が北九州から君津に移住した。日本史に残る「民族大移動」である。

 1970年には八幡製鉄と富士製鉄が合併し新日本製鉄が誕生。翌年最新鋭の大分製鉄所が発足してからは、八幡製鉄の地盤低下は決定的になった。

発祥地の東田地区はイオンのショッピングモールに生まれ変わる

 「鉄は国家なり」と豪語していた新日鉄は1985年、長きにわたって出口が見えない“鉄冷え”の時代を迎えた。戸畑地区への生産集約により、東田地区(八幡地区)では広大な土地が遊休地となった。

 その遊休地を活用して、1990年4月にテーマパーク「スペースワールド」を開業。宇宙をテーマにしたテーマパークで、スペースシャトル「ディスカバリー号」の実物大モデルを設置したが、2017年末にスペースワールドは閉園。多角化事業の象徴だったテーマパークから撤退した。

 跡地にはイオンのショッピングモールが進出する。八幡製鉄の高炉第一号の建設地である東田地区は2021年にイオンの巨大商業施設に生まれ変わる。

 2015年、世界遺産に「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」が登録され、官営八幡製鉄所の旧日本事務所や、釜石製鉄所の橋野高炉跡などが世界遺産に登録された。

 国は東田第一高炉も世界遺産に推したが、登録されなかった。世界遺産はオリジナルであることが絶対条件で、10代目の改修高炉であるため条件を満たさなかったのである。

 「1901」と大書された東田第一高炉は、市の史跡公園にそびえ立っており、松尾芭蕉が、奥州平泉で詠んだ有名な句を思い起こさせる。

 「夏草や兵(つわもの)どもが夢の跡」

(了)
【森村 和男】

(前)

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