【シリーズ】生と死の境目における覚悟~第4章・老夫婦の壮絶な癌との闘い(4)
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自宅での成仏は「無理」~〝オヤジ″久人をあらためて尊敬
前回紹介の「勘違いのラブレター」を公開してくれたのが長男・清彦(仮名)である。
清彦が〝オヤジ″と母について振り返る。
(1)オヤジは家族のために一心不乱に働き、稼いできてくれた。帰宅は連日夜11時ごろ。オヤジのおかげで自分と弟は2人とも大学に通え、卒業できた。
オヤジは無骨といえば、それまでだが、台所回りの手伝いなどもしていた。寡黙だったが、子どもに注いでくれた細やかな愛情には感謝の気持ちしかない。
(2)母・由紀(仮名)は積極的にPTAに参加し、我が子の動きにいつも関心を払ってくれた。「教育ママ」にありがちな「ああしろ、こうしろ」というような干渉はせず、自主性を重んじてくれた。
私の将来に関しても「あなたがやりたい道を選択しなさい」という立場を貫いてくれた。私たち兄弟の前では夫婦喧嘩もめったにしなかった。円満な家庭で育ててくれ、とても感謝している。
清彦は弔問者への挨拶文に目を通した際、「これはラブレターだ」と声をあげてしまった。これほどまでに秘めた愛情を公にする「オヤジ・久人」をあらためて尊敬したそうだ。だが悔いもあるという。両親への最後の恩返しが「冥途への送り出し」なのだが、経済力および諸般の事情で、満足なかたちでできなかったというのである。
「勘違いのラブレター」についての経緯を少し補足する。夫・久人は「自分より先に妻・由紀が先に逝くだろう」と考えた。「もし、そうなると葬儀で挨拶をする必要がある。しかし、自分は肺の病気で発声が困難なため、弔問客への挨拶は、息子に代読させるしかない」と思い、挨拶文を清彦に託したのである。
「内容を見たのですが、芯の強さ、ぶれない自我などすばらしい妻(母)だったことがラブレターのように書き記されていました。ただ、1人残された母が今、どんな気持ちになっているのかと思うと心配です」と清彦は語る。
経済負担が発生していたら、「わが家庭」も破綻
長年にわって親の介護に明け暮れた息子・清彦に現在の心境を聞いた。清彦からは「大変だったが、何も考えず、やるべきことを自然にやってきた。子どもとして当然の行為だと思っている」というシンプルな答えが返ってきた。
筆者は先だって「親を棄てる子どもたち」(平凡社新書)に書かれてあった「親への思いは希薄を通り越してもはや“無”に近い」というくだりを読んだばかりだったので複雑な思いがした。
清彦との質疑を以下に要約する。
清彦 介護という言葉にはちょっと違和感がある。自分は介助と思っている。特別に介護をしているのではなく、親の手助けをくらいに捉えており、負担には思っていない。
ただ、金銭的な負担を自分がしなくてはいけないのであれば違ってくるかもしれない。母親が現在入所している施設は、月に40万円位の費用がかかる。その費用を自分が負担するのであれば、生活もあるし難しくなる。もし、金銭面の負担が発生するのであれば、我が家は破産することになる。その面では非常に助かった。
妻の方も実家の両親の世話で大変である。週に2回、サポートに帰っている。公的介護ですべてを解決することはできないからだ。
自分は両親2人とも癌なので、当然「癌の魔の手」から逃れられないだろうし、その覚悟はある。60代で発病するのか70代で発病するのかはわからないが、もし発病しても自然体で臨むつもりだ。
介護してくれる家族は稀有
久人・由紀夫婦の場合、それなりの資産があり、子どもたちにしっかりとした教育を行ってきた。だから子どもたちは親の最後を看取ってくれる。東京にいない次男も都合をつけて介護のために帰省してくれている。最近では両親の最終局面での面倒を見てくれる子どもは稀有になってきた。そういう意味ではハッピーである。
だが最期は悲惨な一面も垣間見た。「隔離病棟」の選択は久人の寿命を縮めた。初期段階から老人ホームに入居できていたならば、落ち着いて逝去できる。ここに大きな矛盾が発生する。
手術を繰り返す病人たちにとって、落ち着いた「最後の住まい」の確保は至難の業で、病院を転々とし、最期は「隔離病棟」に叩き込まれることとなる。
政府は「住み慣れた地域で人生の最期を迎える」地域包括ケアを推進しているが、現実的には無理な話で、レポートしてきたように、家族の介護負担は相当なものである。現代社会では子どもと別居している親が主流。「一体、どこの家で成仏しろ」というのか
(つづく)
【青木 悦子】※登場人物は全て仮名です
『【シリーズ】生と死の境目における覚悟』の記事一覧
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