2024年12月26日( 木 )

首長の最大の役割は、人口増と増収の再確認(後)

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工程管理による実現化への挑戦

久留米市庁舎

 民間企業では、実行期間を設定して実現化することは自明のことである。大久保市長は市長就任3年間での市政実行プロジェクトを打ち上げた。「2年半をメドに達成できるようにした」。

 2年目に入り財政支出を10%カットした。“のんべんだらり”に慣れていた職員たちに不満が充満したのである。その不満解消の役を引き受けたのが中島副市長であった。生え抜きの市職員で人望があり、同氏の副市長への抜擢には「大久保市長は久留米市の組織のことに詳しい」と職員たちは敬服したという。

 そして何よりも企業誘致を成功させたことが大久保市長の株を引き上げた。まずは冒頭に紹介した「福岡の都市圏にある久留米市」を謳い文句に、東京の企業誘致セミナーに参加して積極的に活動し続けた。この謳い文句は、ある程度の功を奏しているようだ。「JR久留米駅から新幹線を使い、博多駅から地下鉄を使って福岡空港まで40分で到達できます。そこから羽田空港までひとっ飛びです」と。

 福岡県による誘致活動の一環として、(株)資生堂の新工場が久留米市田主丸町にある工場団地で稼働することが決定した。確かに誘致活動主体は福岡県で、久留米市は脇役であったが、この資生堂工場誘致の成功の影響は大きい。久留米市ばかりでなく周辺市町村にも雇用の面でインパクトを与えるであろう。もちろん資生堂側にも「メイド・イン・ジャパンのブランドを高めるには国内で生産するのが賢明」という思惑がある。

 久留米市独自の企業誘致も着々と実績を挙げてきている。まずは(株)KIZUNAの誘致に成功したことである。「通販会社のお手伝い=商品の発送からコールセンターまで」の役割を明確にした企業だ。もちろん、雇用対象は女性である。事務所は、久留米市繁華街にある「ステーションプラザ久留米」にある。

女性の職場拡大重視を優先

 さらに、やずやの子会社(株)ワイズ・ヒューマンの進出も決定した。この会社の業種もテレコールである。もちろん、求人対象は女性になる。ここで読者の方々は大久保市長の企業誘致戦略の根底にある目論見を察し始めたのではないだろうか。求人対象の主体を女性に絞れる企業の誘致を優先している。進出企業は地元企業よりも給料待遇が20%は高い。気分的にも楽な気持ちで勤務できる。

 このような環境の企業では子ども出生・育成に恵まれていることで女性が積極的に子どもづくりに動くようになる。大久保市長には「3年後には必ず出生率が高まる」と踏んでいる。「5年後には30万人を底にして人口増に転じるであろう」というプランも描いているのであろう。目標達成にはやるべきことは山ほどある。子どもたちの育成システムの完備、学校の教育制度の充実、若者たちを地元に定着させる職場確保・創出だ。

 企業誘致活動の先導役は森副市長になる。国土交通省出身の森氏は、佐賀県武雄市出身の縁で久留米市に呼ばれてきたわけではない。定年退職になったので改めて同省背景抜きで副市長を引き受けた。企業誘致などの対外活動役にはぴったり。前述した中島副市長とは好対照的な役割分担をこなしている。

増収増益が一丁目一番地

 民間企業では儲け=利益が求められる。利益が出なければ、企業には倒産・消滅する運命が待ち構えている。自治体が破綻した際には、国が救う措置をとるが再建団体がなければ厳しい財政削減が強いられる(北海道夕張市の例)。大久保市長は民間企業、とくにモルガン・スタンレー証券で鍛えられてきた。「赤字は犯罪」と。だからこそ大久保市長の脳裏には「人口減は減収につながる。そうなるといずれ自治体といえども倒産状態になる」という価値観が染みついている。

 では首長はどういう役割を担うのか。(1)まずは人口減を食い止めて増に転ずることを実現させる、(2)産業を起こし誘致を実現して税収を増やすこと、(3)増収増益を達成させることが首長の一丁目一番地の大命となる。過去の職員上がり3代市長たちにはまったくこの意識はゼロであっただろう。大久保市長の先見性と指導力をもってすれば「増収増益」は達成できると断言する。首長の在り方の見本になるのではないか!!

楢原前市長らの後始末を経て、久留米市の復元力を高める

大久保 勉 氏

 前任市長たちの悪性事業について「俺は知らない」という言い訳は通じない。改革・解決の実行が求められる。たとえば久留米市の市場調査を抜きにした「久留米シティプラザ」の後始末。いかに経済ベースに乗せるかが腕の見せどころである。また、西鉄久留米駅周辺再開発やJR久留米駅周辺再開発の再生などが緊急課題として浮上している。この案件を解決できてこそ、久留米市は復元したと評価される。大久保市長は淡々と采配している。

 後始末も処理しながら実績を積んできたという評価が高まってきた。次に大久保市長がなすべきことは上手(政治家)になることである。仕事師としての能力にも長けていることが承認されてきた。人柄も疾しいところもない(酒の嗜みもないから私生活からの崩れもなかろう)。久留米市職員たちも実績を見ながら尊敬の念をもち始めた。

 ところがおべっかが上手でない。首長は選挙に勝たないとただの人になり下がる。人間とは微妙な存在である。大久保市長を煙たがっていたある経営者が「大久保市長は最近、明るい顔つきになり冗談も言い出した。近寄りやすくなった」と証言する。この経営者は次の選挙で必ず票を集めてくれるはずだ。この心理をつかんでようやく強かな政治家になれる。

 詳細は、久留米市「市政運営方針」を参照してほしい。

(了)


大久保 勉(おおくぼ・つとむ)
1961年生まれ、久留米市安武町出身。明善高校、京都大学経済学部卒業後、84年(株)東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。94年モルガン・スタンレー証券へ転職。2004年7月参議院福岡選挙区で初当選し、参議院議員を2期務める。18年1月久留米市長選に当選、現在に至る。同氏の人生を振り返ると10年ごとに大転換の決断をしているのが特色である。

(前)

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