【コロナと対峙する企業】興和~アベノマスク狂騒曲に乗ったばかりにあれこれ詮索されるハメに(後)
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大衆薬業界団体の「南北朝時代」と呼ばれたお家騒動
興和の三輪芳弘社長は、市販薬(大衆薬)の業界団体である「日本一般用医薬品連合会」(一般薬連)の「南北朝時代」と呼ばれるお家騒動で名を馳せた。
胃腸薬「キャベジン」で知られる興和の三輪芳弘社長と、胃腸薬「正露丸」の大幸薬品の柴田仁会長。互いに一般薬連の「会長」を自称。それぞれ事務所を神田(北朝=柴田派)と日本橋(南朝=三輪派)に構え、正当性をめぐって争ってきた。
一般薬連は11年に設立され、初代会長は大正製薬ホールディングスの上原明社長。16年から三輪氏が引き継いだ。ことの発端は会長人事だ。三輪会長は18年5月末で任期を迎えるはずだったが、5月14日に開かれた傘下5団体会長との懇談会で続投の意志を表明した。三輪氏は柴田氏の会長推薦で合意していた傘下団体に反発。理事間で交わされたメールの情報を基に、元厚労省審議官(医薬担当)の黒川達夫理事長が傘下団体の合意形成に関与していると判断し解任を通知した。
これ対して、柴田氏側は「三輪会長は意志と能力を喪失している」として、前会長だった上原明副会長を会長代行に充て、緊急招集。5月29日に理事会が開かれ、柴田氏の「次期会長」と黒川理事長の留任を決定。三輪氏は資格停止処分にした。
すると、三輪氏側は6月13日、これまでの一般薬連事務所を南約600mのビルに移した。また、柴田氏側が主張する理事会には手続き上の不備があり、自らが正当の会長であるという立場をとった。
6月21日、三輪会長は一般薬連の理事会を招集。一般薬連の理事33人のうち出席したのは興和出身の理事のみ。興和の2人を除く理事の「辞任」や三輪会長の続投を決めた。
まったく同じ名前の団体が2つ存在し、トップを名乗るのが2人。うり2つのホームページがあり、事務所は別々。三輪氏は「意志と能力を喪失」とされたのは名誉棄損だとして訴訟を起こした。
南北朝時代に例えれば、柴田氏が京都の光明天皇(北朝)、三輪氏が吉野に遷幸した後醍醐天皇(北朝)といったところ。大衆薬業界の「南北朝時代」と揶揄(やゆ)された。柴田氏側は18年11月、三輪氏側を被告として「一般薬連」の名称使用の差し止めを求めて東京地裁に提訴した。
南北朝時代は両者が正当性を主張して約60年続き、南朝の天皇が北朝に譲位するかたちで終結した。
大衆薬の「南北朝時代」は南朝の敗北で終わった。東京地裁は20年3月4日、柴田氏側の主張を認め、三輪氏側に一般薬連の名称の使用を禁じた。団結すべき業界団体が、内輪もめにうつつを抜かした。経営トップとしてライバル関係にある興和の三輪氏と大正製薬の上原氏が不仲で、それが影響したのではないかと言われた。この騒動でミソをつけたのが三輪氏。業界から総スカンをくらった。
三輪芳弘氏が、アベノマスクに手を挙げたのは、敗訴が確定して2週間後のこと。マスク不足の救世主となり、失地回復の狙いがあったのかもしれない。
(了)
【森村 和男】
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