ハーツ社代表の戸島匡宣氏は、どうして儲けられなかったのか。
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インバウンド・バブルで蔵を立てた面々が続々
インバウンド・バブルで黄金をザクザクと貯め込んだ連中は数多い。とくに中国から乗り込んできた方々に目立つ。一例を紹介する。
5年半前、周は中国からインバウンドビジネスのチャンスを狙って来福した。日本語もさほど達者ではない。良い度胸というか糞度胸をしており、陣容の才覚は天下一品。福岡に精通し日本語ペラペラの先輩である黄を口説いて会長に座らせた。黄は家族総出で来福した。
周と黄は早速、インバウンドを取り扱う旅行会社を立ち上げた。周社長は徹底した営業マンである。北京、東京にあるクルーズ船事業の関係先にアタックかけた。「福岡で上陸した観光客の移動・滞在費用はゼロで引き受けます」という殺し文句で、短期間で取り扱い客数を急増させた。周は接待飲食で体調を壊すこともあった。会長に就いた黄は動かずに組織マネジメントに徹し、さまざまな人事トラブルを収拾させることに専念した。
黄から相談を受けたのは2年前のことだ。「周社長が4億円の予算で自宅建設の計画を練っている。信頼できる業者を紹介してくれ」であった。「紹介はできるが、資金はあるの? 借金するの?」と尋ねた。「大丈夫。しっかりと儲かっているから」と、普段あまりハッタリを言わない黄が自信満々に断言した。「へー、3年足らずで豪邸を立てるほど儲かったの」と皮肉を込めて返答したら、彼はニタリと笑った。
その周と黄が、コロナウイルス禍の影響で会社を清算することを決めた。だから、というわけではないだろうが、黄はインバウンドがどれだけ旨味のあるビジネスだったのか、儲けのカラクリを明かしてくれた。
すべては、観光客が免税店でどれだけ買い物をするか、その売上高で決まるという。百道などにある免税店にバスを停めて1時間半ほど立ち寄らせる。客が1,500人だった場合、その日だけで3~4億円程度の売上になるという。店から黄の会社へ売上の40%がバックされ、そのうちの半分を添乗員など外注先へ回す。「我が社の社員数は少ない。だから添乗員を儲けさせないと持続した業績は得られない」と、売上アップの秘訣も教えてくれた。さすがに先を読む中国人の才覚は凄い。
黄本人のことも率直に尋ねてみた。「日本でしこたま貯め込んだろうが、もう中国に引き上げるの?」。黄は答えて言った。「そうねー。この2年間、年2回1,000万円のボーナスをもらったよ。マンションも買ったし、私が元気な間は福岡で生活する。空気もきれいで生活環境も良い。健康で自由に生きられるのだから、いまさら中国に帰る気持ちはさらさらない」とのことだ。
どうして儲けることができないの?
黄が、「ところで、あのハーツ社の戸島社長は支払いトラブルを起こしているらしいね。どうして?」と切り込んできた。わかる範囲で説明したが、黄はどうにも腑に落ちないという顔をして首を捻る。
要するに、(1)業界は狭いからたびたび戸島氏には会ったし、食事もした。(2)福岡市の中枢(高島市長)にパイプがあり、バス事業などでもその力を見せつけられていた。(3)年齢の割に人脈も凄いと感じていた。(4)戸島氏自身も話が上手で如才ない。……という4点をあげて、戸島社長を評価していたことを打ち明けたのだ。これほど旨味があったインバウンドで、戸島氏はなぜ儲けられなかったのか。中国人の黄にしてみたら、まったく理解不能だったに違いない。
「しかし、もう2度とインバウンド・バブルはやってこないよ。いったい、あの人(戸島氏)はいつ儲けるんだろうね?」。黄はひとり言を呟いていた。
(登場者仮名)
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