2024年09月09日( 月 )

【凡学一生のやさしい法律学】河井克行・案里夫妻買収事件の闇(2)

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事件の本質を隠蔽するマスコミ報道

(1)本件事件は刑事裁判としては99.99%有罪

 この結論は、微動だにしない日本の刑事裁判の実情であり、本来なら報道する価値もない単純な故意犯罪事件である。日本の刑事裁判は99.99%が有罪判決となるが、それは大部分が故意犯罪事件であり、過失犯罪事件ではそもそも故意について議論しないからである。結局、刑事裁判で故意についてそれを争点とした裁判例は存在しないと断言してもよい。

 しかしマスコミ報道では「金銭の供与の趣旨」が重大な争点となるといわれている。そしてその通りに裁判の進行が行われるとすれば、もはや検察官、裁判官、弁護人、マスコミの4者全員による国民を欺く茶番劇となり、より一層、見る価値も聞く価値もないものとなる。

(2)刑事裁判では故意の存在は争点となりえない理由

 なじみのない公職選挙法の買収罪の事件のため、国民は真相をつかみにくいだろうが、同じ故意犯罪を例に挙げて、故意を争点とすることがいかに法的にあり得ないかを説明しよう。

 殺人事件では、大抵の犯人はその殺意を否定し、「殺すつもりはなかった」と弁解するが、もちろんこのような弁解が通り、殺人犯人が無罪や故意犯罪の殺人ではなく、過失犯罪の過失致死傷罪に問われた事例も存在しない。

 殺人の故意は殺人罪のなかで中心的な構成要件でありながら、実際の裁判では重大争点とならないのは、故意が証明不可能な主観的違法要素としての構成要件だからである。誰も他人の内心の状況を客観的に立証することはできないのだ。

 犯人が本当に「殺す意図はなかった」のか、または「殺す意図をもっていた」のかは、他人である検察官には立証不可能である。

 しかも「殺意」の語義は、ある意味曖昧である。たとえば最初は単なる感情的な対立で始まった喧嘩闘争が次第にエスカレートして無我夢中で相手を攻撃し、気づいたときには相手を殺害してしまっていた場合、文字通りの「殺意」というのはどの時点のどの行為において存在するのか。

 「カッとなって相手を殺めてしまった」という場合、感情、故意は「カッとなった状態」のなかにしか存在しえないのだから、「カッとなった状態」=「殺意」ということになる。

 ここまで細かに分析すると、「殺意」とは普通の人が考えているより、相当広い概念であることがわかるが、さらに追い討ちをかける法律用語概念が「未必の故意」である。これは犯行当時には現実には「殺意」が存在していなくても、殺害の結果を予見し、それを容認する内心の事情があれば、それを故意と認定する技術概念である。

 普通には「死亡の結果を予期できる行為であることの認識があったこと」を事後的な捜査過程で確認する。たとえば、攻撃する武器に包丁や刃物を使用した場合、現実には有効な防御のためであっても、場合によっては致命傷を与えることを予期することができるから、死亡の結果を容認した武器の使用と認定される。ここで重要なことは、すでに客観的な行為に、殺害可能性が存在すれば「未必の故意」が認定されるということである。この「未必の故意」理論によって、主観的違法要素の故意は客観的違法要素に事実上変貌したといえる。

 そして最後に、現実の刑事裁判では検察官の立証は成功して、犯人は処罰される。その結果が99.99%の有罪率である。

 立証不可能な主観的違法要素(内心の状況)の証明が成功しているのは、未必の故意理論を含め、最終的に証拠の証明力を決定する裁判官が「証明ありと認定する」からである。この裁判官の最終的な証拠の証明力の認定権を、裁判官の「自由心証権」という。

 これは完全に性善説の視点に立って裁判官を捉えている立法で、日本の不正・不当裁判の根源的原因である。生身の裁判官には性善説が妥当する者もいれば、そうでない者も当然いる。司法試験や司法研修後の二回試験には性悪人をふるい落とす機能はまったくないからである。

 幸い、性善か性悪かも一見内心の状況(の結果)のために証明不可能な事例のようであるが、裁判官が性善か性悪かは、その訴訟指揮や判決内容で間接的に知ることができる。結論は有罪と決めているのに、あたかも審理を尽くしたかのごとく裁判を進行させる姿は、筆者にはとても性善の人間のすることではないと感じられる。

 ただし、今回の事件では裁判官の性善を問う論点を弁護側は主張する。それが、前述の弁護側の違法な闇の司法取引の存在である。今後の裁判で、この違法な闇の司法取引、その結果としての対向犯である被供与者である市会議員や県会議員らの不起訴の事実を裁判所がどう判断するかは注目に値する。

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