【凡学一生のやさしい法律学】河井克行・案里夫妻買収事件の闇(3)
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マスコミが報道すべき重大な「不都合な真実」
(1)交付された政治資金の管理責任
本件事件は以前から重大で巨大な買収事件と報道されてきたが、検察が捜査に着手する気配がはっきり見られなかった。その原因が、賭けマージャンで失職した検察幹部の存在であった。この検察幹部をめぐっては異例の検察官定年延長事件が政治的争点となっていた。
これらの「関連事実」が一気に変貌したのは、この検察幹部がマスコミの有力新聞社の記者らと常習的な賭けマージャンをしていたことが発覚したことによる。本件事件もこの検察幹部の退場と軌を一にして一気に捜査が進展し、大規模な買収事件の姿が国民に知られるところとなった。本件事件で政権与党が絶対的に隠蔽したい事実はその買収の規模が極めて大きく、投下された買収資金が巨額であり、それが政権与党から被告人らに供与された政治資金ではないか、という疑惑である。つまり、このような大規模買収事件の資金原資が政党交付金である可能性があることである。
これに関して自民党の総裁である安倍晋三氏は被告人に交付された1億2,000万円もの政治資金は公認会計士の監査を経た適正な手続によるもの、と頓珍漢(とんちんかん)な見解を表明した。交付過程・交付手続が公明正大であっても、交付を受けた者が犯罪行為の原資とした場合、その交付手続の公正性を力説してもまったく意味がない。
問題は、交付を受けた者が犯罪行為の原資としたことについての交付者の責任であって、交付された政治資金についての事前の使途計画と費消後の事後報告の提出義務を受領者に厳しく課すことによって、その管理責任が全うされる。そのような内部規定もなく、受領者の自由裁量による費消を認めるものであれば、まさに公金の私物化の典型となる。これらの事実関係は政権与党が公にしたくない事情である。
(2)司法取引概念の誤用
今般の刑事訴訟法改正で導入された日本版司法取引法では、その対象犯罪を限定しており、本件事件では司法取引はあり得ない。それにも関わらず、対向犯罪(※1)である本件で対向犯を不起訴とすることは、それ自体公訴権の濫用という違法行為犯罪行為である。
弁護団は「闇の司法取引」と表現しているため、かえって「闇の司法取引」の存在を立証する責任を負う破目になっている。単純明快に、対向犯罪で対向犯の一方だけを起訴し、他方を起訴しないことは公訴権の濫用で違法であると主張すれば、本来起訴すべき被供与者を不起訴とした合理的な正当な理由の提示は、検察官が負担することになる。裁判官がこのように立証責任の存在を正しく理解するなら、裁判の結果は非常に不透明なものとなる。
アメリカではこの時点で本案審理をしないが(手続的正義(※2)の重視)、日本の法律学と実務では、その後の本案審理を禁止していない(手続的正義の軽視や無視)。ゴーン裁判でも裁判所は司法取引の違法性については審理を後まわしにしようとして、弁護側と鋭く対立した。
その結果、裁判官は供与者の違法性と検察官の違法性を天秤にかけることとなる。伝統的な裁判官と検察官の親和性の結果、検察官の公訴権濫用は不問に付されることとなる可能性が大となる。
※1必ず2人以上で成立し、その関係は純然たる共犯関係ではない関係の犯罪。賄賂罪や買収罪がその典型。
※2手続的正義とは「適正な手続が存在しない裁判には真実は存在しない」という思想で、日本国憲法でも憲法第31条に規定されている。ただし、条文の文言から、この適正手続保障は刑事手続についてのみ保障されたものであるとの学説も有力に存在してきた。こんな日本版適正手続概念が罷り通る日本の法律学である。
この限定縮小解釈説でも刑事手続での適正手続の保障を認めているため、学者でもない裁判官はおとなしく条理に従うかと思いきや、そうではない、という日本の司法権の実態をみせつけられることのないことを願うばかりである。
(つづく)
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