地球環境を踏まえた持続可能な「市場経済システム」を模索!(1)
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(一財)国際経済連携推進センター 理事 井出 亜夫 氏
多くの人々は、『歴史の終わり』(フランシス・フクヤマ著)や『フラット化する世界』(トーマス・フリードマン著)に描かれた、民主主義で自由経済のグローバル化した世界がほとんど虚構にすぎなかったと気づき始めている。トマ・ピケティ氏がベストセラーの『21世紀の資本』で指摘したように、グローバル化は、富の格差拡大やそれに伴う政治・社会問題などを生み出し、市場経済システムが不安定であると自覚したためだ。
(一財)国際経済連携推進センター理事の井出氏は、「自然を克服する欧米思想によってもたらされた近代は、もはや機能していない。新型コロナ後の世界では、人間の相対性や相互依存性に着目した「東洋思想」を振り返り、今後の対応に役立てるべきではないか」と語る。自然界からの現代社会への挑戦
――今回の新型コロナ騒動をどのように見ていますか。
井出 新型コロナ騒動で、世界や日本の経済が大変な不振に陥っています。そこで、この経済不振を「リーマン・ショック」(※1)にたとえる言説、報道もありますが、それは大きな誤りです。リーマン・ショックは、市場経済システムのなかの金融のメカニズムが誤っていたために起こりました。今回の経済不振はリーマン・ショックとはまったく異なり、自然界からの現代社会(人間社会・文明)への挑戦であることを認識する必要があります。このことが、今回のテーマの一番の原点になります。
1962年にレイチェル・カーソンが著書『沈黙の春』において、農業・自然界と化学製品の相克の問題を提起し、72年にはローマ・クラブが「成長の限界」を提示し、また同年には、スウェーデン・ストックホルムにおいて「国連人間環境会議」が開催されています。そこでは、先進工業国は経済成長から環境保全への転換、開発途上国は開発の推進と援助の増強が重要であるとされました。
しかし、第1次・第2次石油危機の発生にともない、国際エネルギー機関(IEA)の設立や先進国首脳会議の発足によるエネルギー問題への対応、スミソニアン体制から変動相場制への移行、プラザ合意、世界経済の中枢であるアメリカ経済の疲弊などによって、この動きは事実上、約20年も止まってしまいました。
その後、92年にブラジル・リオデジャネイロで「国連環境開発会議」(地球サミット)が開催され、「環境と開発に関するリオ宣言」、持続可能な開発のための行動計画「アジェンダ21」に加え、気候変動枠組条約、生物多様性条約への署名が始まり、持続可能な開発が、人類が安全に繁栄するための未来への道であると確認されました。この動きは、以降一連のCOP会合(国連気候変動枠組条約締約国会議)、2030年の目標達成を目指す国連SDGs(※2)につながっています。
また、アメリカのトランプ大統領がパリ協定からの離脱を表明、WHOからの離脱もほのめかすなど、動きが慌ただしくなっています。しかし、私はSDGsなどに代表される「人類と自然」との関係を、全世界的なコンセンサス(国際協力)をもって、本格的に進めていく必要があると感じています。
アメリカのトランプ大統領や日本の指導者からは、残念ながら、このような環境問題に関する発言はありません。しかし、ドイツのメルケル首相はEUを代表して、「人類と自然」について言及しています。
新型コロナウイルス感染に関して、日本は軽症で済んでいますが、その経済対策が国内の「GoToトラベルキャンペーン」のみに終始してしまうのは極めて情けないことです。日本の「環境基本法」(※3)には、環境の恵沢の享受と次世代への継承、国際協力などがはっきり謳われているにもかかわらずです。
(つづく)
【金木 亮憲】
※1:2008年9月、アメリカの有力投資銀行であるリーマンブラザーズの破綻から広がった世界的な株価下落、金融不安・危機、同時不況の総称。 ^
※2:2030年までの達成を目指す、持続的可能な17の開発目標。
1.貧困をなくそう、2. 飢餓をゼロに、3. すべての人に健康と福祉を、4. 質の高い教育をみんなに、5. ジェンダーの平等を実現しよう、6. 安全な水とトイレを世界中に、7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに、8. 働きがいも経済成長も、9. 産業と技術革新の基盤をつくろう、10. 人や国の不平等をなくすような対策を、11. 住み続けられるまちづくりを、12. つくる責任 つかう責任、13. 気候変動に具体的な対策を、14. 海の豊かさを守ろう、15. 陸の豊かさも守ろう、16. 平和と公正をすべての人に、17. パートナーシップで目標を達成しよう。 ^※3:環境基本法
1992年10月、中央公害対策審議会と自然環境保全審議会が答申し、環境庁が法案を作成、93年11月に制定された。基本理念として、環境の恵沢の享受と継承、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築、国際的協調による地球環境保全の積極的推進を掲げ、国や自治体の役割や、環境保全のための基本的事項や方法が定められている。 ^
<プロフィール>
井出 亜夫(いで・つぐお)
東京大学経済学部卒、英国サセックス大学経済学修士。(一財)経済産業調査会監事、(一財)地球産業文化研究所理事、(一財)機械振興協会理事、同経済研究所運営委員会委員長、(認定NOI法人)日本水フォーラム評議委員、全国商工会(連)業務評価委員長、(一財)国際経済連携推進センター理事、(一社)フォーカス・ワン代表理事など。
1967年に通産省入省して99年退官。この間、OECD日本政府代表部参事官、中小企業庁小規模企業部長、経済企画庁物価局審議官、日本銀行政策委員、経済企画庁国民生活局長、経済企画審議官(OECD経済政策委員会日本政府代表)の役職などを歴任。退官後は、慶応義塾大学教授同客員教授、日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科教授同研究科長、INSEAD日本委員会メンバー、国際中小企業会議代表幹事・シニアアドバイザー、中小企業事業団理事、(公財)全国中小企業取引振興協会会長などを歴任。
著書として、『アジアのエネルギー・環境と経済発展』(共著 慶応大学出版会)、『日中韓FTA』(共著 日本経済評論社)、『世界のなかの日本の役割を考える』(共著 慶応大学出版会)、『井出一太郎回顧録』(共同編集 吉田書店)、『コロナの先の世界』(共著 産経新聞出版社)。関連記事
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