2024年11月30日( 土 )

【凡学一生の優しい法律学】横行する同意詐取~前田建設廃材不法投棄事件(中)

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前田建設廃材不法投棄事件(続き)

(4)法匪の無責任誘導

 この事件は現在、裁判になっているかといえばなってはいない。ADR()という市民には耳慣れない状態にある。正式には国土交通省に設置された裁判外紛争処理機関の中央建設工事紛争審査会での協議だ。この制度は裁判手続ではなく、公開は義務づけられていない。しかし、公開が義務化されていない点には功罪がある。

 近年、報道されたADR関連の重大事件では、昨年の台風で倒壊して複数の民家を破壊した千葉の市原ゴルフガーデン鉄柱倒壊事件があるが、いまだに事件は未解決である。

 その理由は、加害者の責任処理手順としての所有地の売却が、隣地との境界線紛争で頓挫しているためという。迅速な事件の解決どころか、本質的な限界を露呈した。明らかにADRの罪の部分である、

 その責任は、いうまでもなく双方の代理人弁護士にある。市民にとってADRや裁判外紛争処理制度の仕組みをすぐに理解することは難しいため、弁護士の誘導によりADRを選択したことは確実だ。この点にも、明らかに同意詐取が見られる。

 同意詐取の口実として、裁判は長期を要するうえに、裁判を行っても大半は和解となる現実から、「それなら最初から、和解手続であるADRがよい」と勧められたに違いない。

 和解の本質は互譲の精神である。商事契約条項の解釈なら互譲の精神が発露される可能性があるが、犯罪の加害者と被害者に近い間柄において互譲の精神など成立するのだろうか。事案によっては和解の余地がないものがあり、市原ゴルフガーデン鉄柱倒壊事件も本件も、最初から和解という手続を進めた弁護士の被害者の被害回復実現に対する感覚や熱意には疑わしいものがある。

 代理人弁護士が最初から暴論を主張する事件では、ADRによる解決は不可能であり、互譲の精神はとくに代理人弁護士に必要である。市原ゴルフガーデン鉄柱倒壊事件では当初、加害者の代理人弁護士は「事件は天災によるもので、賠償責任はない」との暴論を展開した。

 このような暴論弁護士を相手にADRを勧めた(ないしは同意した)被害者の代理人弁護士の事件の予見性のなさには、依頼者ならずとも絶望の念を禁じえない。筆者にとっては、弁護士同士で暗黙の談合があったのではないかと疑われるほどだ。

(5)請負人代理人弁護士の暴論

 請負人は現在、誰からも産業廃棄物処理法違反で告訴告発されてもおらず、「不法処理合意」の主張は、ADRにおける債務不履行責任の軽減、否定を目的とした主張である。

 施主は不法処理が発覚した場合には、請負人が倒産などの理由で消滅していた場合であっても適正な産業廃棄物の処理責任を負う。このような事情を無視して、施主の法令上の無知を幸いとばかりに、何らかの合意・同意をとりつけたものであるから、事情を知らない者に「めくら判」を押させることと同じである。

 弁護士であれば、この種の2項詐欺に類似する事例は数多く体験しているはずで、明らかに違法性を認識して主張しているものだ。さらに法理論的には、事前の債務不履行責任の軽減または免除契約の主張であるため、公序良俗違反の契約となる。裁判手続であれば、さすがに裁判官はこのような犯罪的弁論は認めないが、ADRであるため、弁護士は安心して暴論を主張している。

 相当な賠償額が被害者に提示されなければADRは不調に終わり、振り出しに戻って裁判手続を行うことになる。弁護士がADRでも裁判でも二重に弁護料を取得する(少なくとも被害者の代理人弁護士には妥当する)結果となれば、被害者は二重の損害となり、加害者にも二重の出費となる。筆者は、被害者が詳しい事情を知らないADRの結論を受諾したことが、この馬鹿げた結果を引き起こすのではないかと危惧している。これは、行き過ぎた老婆心だろうか。

(つづく)

※:ADR
 Alternative(代替的) Dispute(紛争) Resolution(解決手段)
裁判手続が長期であり、専門家でない裁判官が専門事項を判断する無理のため、国民からの批判と信頼の失墜が長く続いた。これに代わり、専門的に国民の納得の行く解決を迅速に実現する制度として提唱されてきたが、実際には裁判官と同種同等の弁護士が主導主役となるため、理想とはほど遠い現実となっている。しかも、実情は、裁判手続以上に非公開制のため闇のなかにある。やはり公開裁判を正常化させるのが一番正しい対処法である。そのためには国民自身が法律文盲から脱却しなければならない。 ^

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