2024年11月14日( 木 )

朝鮮戦争―日本の民主主義の変節、自由主義の崩壊の原点!(2)

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 第38回「世界友愛フォーラム」が9月24日、「鳩山会館」(東京都文京区)において開催された。(一財)東アジア共同体研究所理事・所長(元外務省国際情報局長)の孫崎享氏(『朝鮮戦争の正体』著者)が「朝鮮戦争―なぜ起こったか、日本政治への影響―」と題して講演を行った。
 70年前の朝鮮戦争の正体を今になって振り返ってみると、私たちが直面している「憲法の形骸化」「民主主義の変節」「自由主義の崩壊」「軍事大国に邁進するアメリカ」「アメリカに隷属する日本」という複雑に絡み合った糸がまるで嘘のように解きほぐされる。

安全保障が「嘘と詭弁」の出発点

 次に、孫崎氏は「森友学園問題、加計学園問題、桜を見る会問題、黒川元検事長の検察官の定年延長問題など、「嘘と詭弁」が横行しています。しかし、この嘘と詭弁が最初に使われたのが安全保障の分野。その1つである『朝鮮戦争』について皆さんと一緒に勉強していきたい」と語った。以下に、孫崎氏の言葉で講演内容をお伝えしたい。

序論:朝鮮戦争について学ぶ意義とはなにか

日本・世界情勢は朝鮮戦争と密接に関係する

 朝鮮戦争は70年も前の話で、参加者のなかには、まだ生まれていなかった方もたくさんいるでしょう。
 教養を高めるという点を除けば、朝鮮戦争について学ぶことは、現代に生きる我々にとって何の役に立つのでしょうか。実は朝鮮戦争は、今日の日本情勢、世界情勢と密接に関わっています。そのことを、1つひとつ解きほぐしていきたいと考えています。

 参加者の皆さんは「日本は民主主義国家で、かつ自由主義を大事にする国家である」と考えていると感じます。しかし、第2次世界大戦後、日本の民主主義と自由主義が初めて蹂躙されたのが朝鮮戦争です。さらに、日本の憲法の柱である第9条「戦争の放棄」も戦後、朝鮮戦争で初めて破られました。さらに、今同じことが繰り返されようとしています。

本論:論点1「朝鮮戦争はなぜ始まったのか」

朝鮮半島を大国数カ国で「共同信託統治」

孫崎 享 氏

 1950年6月25日、金日成氏が率いる北朝鮮軍が事実上の国境線であった38度線を越えて、韓国に軍事攻撃を行い、戦いは53年7月27日に国連軍と中朝連合軍(北朝鮮軍と中国人民義勇軍)が休戦協定に署名するまで、3年以上続きました。これらの経緯から、多くの人は朝鮮戦争の始まりは「ソ連にそそのかされた金日成が率いる北朝鮮軍が、事実上の国境線と化していた38度線をソ連製の戦車で越えて、韓国に侵略を仕掛けた」というイメージをもっているでしょう。

 しかし、私はこの本を書く過程で「朝鮮戦争が始まった出発点」は、フランクリン・ルーズベルト大統領(1882‐1945)が亡くなった時にさかのぼるという結論に至りました。45年4月にルーズベルト大統領が亡くなり、ハリー・S・トルーマン大統領(1884‐1972)が就任したとき、世界の動きが大きく変わりました。

 朝鮮分割案が提示される以前は、米国の朝鮮半島についての考え方はルーズベルト大統領が推進した大国数カ国(米・中・ソ連など)による「共同信託統治」でした。第2次世界大戦の終結前には、日本の占領地をどうするかは米国やソ連の関心事でしたが、朝鮮半島に関する限り、米ソの勢力範囲は確定しておらず、米国の政策担当者らは、日本が降伏するまで朝鮮についてはほとんど言及していません。しかし、トルーマン大統領になり、米国が一部を支配する「分割」に変化しました。これは米国が「国際協調主義」から「一国主義」に移行し、「冷戦」が次第に世界の潮流になることを意味します。

トルーマン大統領は「アメリカの国益に力点」を選択

 戦後の世界におけるアメリカの役割には2つのビジョンがあり、いずれの議論に従うべきかという論争が行われていました。1つのビジョンは、「資本主義の長所を強調する性格」で、具体的には、自由貿易、開放社会、世界市場のメカニズム、議会制民主主義、貧者に対する援助であり、大国主義であるかもしれませんが、気前よくアメリカの豊かさを分かち合う方針です。

 もう1つのビジョンは「アメリカの国益に力点」を置く方針です。より強引な性格のものであって、領土を拡張し、アメリカ経済の支配区域を拡大し、アメリカ的生活様式を敵視するものとの対決を辞さない方針です。ルーズベルト氏は前者のビジョンを提唱した第一人者と言われ、アメリカの対朝鮮政策に強力な影響をおよぼしていました。一方、トルーマン氏は、根っからの一国主義者であったと考えられています。

金日成政権も李承晩政権も支持を得られず

 第二次世界大戦後、トルーマン大統領は、45年9月6日に、朝鮮人が自らの統治を目指した「朝鮮人民共和国」を認めず、38度線を境界線にした「分割統治」に向かいます。

 ソ連はスターリン氏が、「朝鮮人だが、長い間朝鮮半島には住んでいなかった」金日成氏を持ち込み、米国は同じく「朝鮮人だが、長い間朝鮮半島には住んで入なかった」李承晩氏を持ち込んで傀儡政権を樹立させました。

 当然のこととして、朝鮮の政治家、朝鮮人民からは猛反発が起こり、北の金日成政権も、南の李承晩政権も朝鮮の人々の支持を得られませんでした。そこで、金氏も李氏も、49年頃から「我々が軍を出して戦えば、一般市民も立ち上がって一丸となり、国づくりが進むのではないか」と考えるようになります。両者とも、「力での南北統一」を最優先課題にするのです。

 金氏はスターリン氏に対し「朝鮮半島を統一したい」と申し出ます。スターリン氏にとっては嬉しい話ではなく、「米国が参戦しないこと、中国の毛沢東主席の承認が得られることなど」の条件を付けて承認します。結果的に、金氏は米国の反応に対する読みを誤って、軍事攻撃を開始してしまいます。

 米国は、朝鮮戦争勃発前には、朝鮮半島に興味を示していなかったと思われますが、「もし韓国が陥落するのを許せば、共産主義者はこれに勇気づけられて、米国の沿岸に近い諸国まで蹂躙するようになるだろう」と考え、ミズーリ州インデペンデンスにいたトルーマン大統領は50年6月24日にワシントンへと向かい、参戦します。このトルーマン大統領の反応が、基本的に朝鮮戦争の解釈の定番です。

(つづく)

【金木 亮憲】


<INFORMATION>

(一財) 東アジア共同体研究所
 東アジア共同体研究所は、鳩山友紀夫内閣時代に国家目標の柱の1つに掲げられた「東アジア共同体の創造」を目的とするシンクタンク。2013年3月15日に発足。理事長・鳩山友紀夫(第93代内閣総理大臣)の下、理事・所長の孫崎享氏(元外務省国際情報局長)、理事の橋本大二郎氏(元高知県知事)、理事の高野孟氏(ジャーナリスト)、理事の茂木健一郎氏(脳科学者)を中心に、プロジェクト形式で研究活動を行っている。


世界友愛フォーラム
 アジア共同体研究所の事業の一環として、東アジアのみならず、広く世界の平和と共生を「友愛」の理念に基づいて推進していくための自由な議論や交流の場。これまでに、「東アジア共同体構想」や「東アジアの安全保障」「東アジアと沖縄」をテーマに勉強会やシンポジウムを開催、参加者は講師との意見交換など活発に議論を交わし、「世界の平和と共生」への理解を深めている。

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