2024年12月24日( 火 )

内藤工務店の内藤建三社長を偲ぶ~企業価値40億円を積み上げた経営者(5)

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 (株)内藤工務店の内藤建三社長が10月1日に逝去した。75歳だった。葬儀は3日、しめやかに執り行われた。故人・建三氏は1978年3月に初代・内藤正治社長の後を受け継ぎ、陣頭指揮を執ってきた。32歳から75歳まで最前線を走ってきたのである。
 建三氏の経営の特徴はトップセールス力であろう(詳細については後述する)。建三氏はその努力の結果、地元ゼネコン業界の中堅として内藤工務店の地位を確立させた。

 建三氏は一見すると、頑丈な体格を有する印象だが、近年は白血病に侵され、ハードな治療を余儀なくされていたという。今春からは、九州大学病院で入退院を繰り返していた。寿命が長い現代における75歳での逝去は「短い人生だ」と惜しまれる。本人もやり残していたことがまだたくさんあったはずである。

余勢を駆ると絶句するほどの好結果を生む

 前述した通り、60年から41年かけて2001年4月期に純資産を3億円強貯めた。20年後の20年3月期には純資産28億8,851万円と9倍に膨らんだ。経過年数を換算すると60年から01年まで41年かかり、01年から20年までの約20年間で半分の時間となる。だから時間単位のスピード換算では18倍膨張させたことになる。このような絶句するデータは、この20年間の業績推移のいたるところで見かけられる。

 まずは売上動向である。01年4月期14億6,012万円、20年3月期59億1,885万円と4倍の伸びを示している。粗利の面で比較しよう。粗利率面では最初は10.20%、最後は12.94%である。2.74%の粗利アップは総利益(粗利額)の増加につながる。だが今回は売上高4.2倍の伸長が粗利額急増の最大の貢献要因である。01年当時の粗利額は1億4,889万円だったが、20年3月期は7億6,602万円と5.1倍に膨らんでいる。この結果は自力だけでは達成至難!余勢を駆ることなしに到達できない業である。

建設業の特性知るべし! 総利益増にともなって一般管理費は増大しない

 ここで扱う内藤工務店のケースは、どの企業にも共通していることである。売上総利益が拡大しても、それにともなって一般管理費は増大しないという法則を理解していただきたい。裏を返せば総利益が増えれば営業利益の伸び率が高くなるということだ。その傾向が顕著になっているのが、15年3月期から20年3月期である。この6期間の総利益・一般管理費・営業利益をピックアップしてみた。

 まず15年3月期の総利益(粗利)は7億3,241万円である。営業利益は3億8,990万円を計上している。差引一般管理費は3億4,251万円となる。一般管理費対総利益比率は46.8%となる。これに対して最高の利益を叩き出した19年3月期で同じ比較をしてみる。総利益11億416万円、営業利益7億1万円となり、差引して一般管理費は4億415万円となる。一般管理費対総利益比率は36.6%で、10ポイントダウンしているのである。

 別の角度から検証しよう。15年3月期、19年3月期の比較である。まず総利益金額の伸びは3億7,175万円で、伸び率は50.8%となる。一般管理費の変動を比較すると6,164万円の増加である。伸び率18.0%と、いい意味で低迷している。営業利益変動も同様の計算をしてみよう。3億1,011万円増加している。伸び率79.5%である。単純に指摘すれば総利益は3億7,175万円増加した。営業利益の増加金額も3億1,011万円増えている。この事実から建設業界は総利益を増大させれば営業利益も連動していくという法則を有していることが理解できるだろう。

内部留保優先だけで良かったのか!

 さらに面白いデータをピックアップしてみた。建三氏の経営哲学を周知している経営者は「これは面白い。彼の経営哲学の神髄を表している」と納得するであろう。要は当期純利益を内部蓄積=純資産に繰り入れた金額の検証である。15年から20年3月期までの6期の当期純利益と純資産の変動資料を添付した。

 15年3月期以降は必ず2億円以上の当期利益(純利益)を叩き出してきた。19年3月期には4億5,513万円を計上し、対売上・当期利益率は6.9%を誇った。昔々、屈辱の時代には粗利6.9%で受注に甘んじる業者もいた。「建設業界が天下を取った現在」と比較するとまさしく隔世の感がする。

 話を進めよう!15~20年3月期に最低でも1億9,253万円、最大で4億3,013万円純資産を増やしている。純利益対純資産増加金額率の動向を参照されたし。すべて95%前後の内部留保が継続されている。恐らく配当する意識はなく「もうかればすべて内部留保していかなる危機にも備えるべし」という建三氏の危機防衛哲学が如実に表れている(株主構成資料を参照されたし。建三氏が約半数をもっている)。

 「オーナーは誰でも非常事態に備える本能をもっている」と弁護する経営者が大半だろう。弁護する経営者に次のように問う。「建三氏の内部留保優先戦略は単純すぎではありませんか?御社ならばまだ巧妙な税務対策を講じているはずですが―」。複雑な節税対策を講じている経営者は黙るだろう。「確かに単純な純資産増加策だな。まだまだ打つ手はあったはず」と呟きながら――。

(つづく)

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