2024年12月22日( 日 )

【ラスト50kmの攻防(15)】長崎ルート全線開業の機運加速 両県関係者が意見交換会

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国交省は「フル規格」方針

 九州新幹線長崎ルートの整備方式で対立する国交省と佐賀県が、武雄温泉―長崎間の開業が2022年秋と決まった後、初めて新鳥栖―武雄温泉間の整備方式を協議した。国交省はこの区間もフル規格整備が「効果を最も発揮できる」と表明、フル規格を軸に協議を進める方針を伝えた。

 協議は6月と7月に次いで3回目。国交省の足立基成幹線鉄道課長と南里隆地域交流部長が佐賀県庁で、1時間半やり取りした。足立氏は、想定する5つの整備方式について整備距離、概算建設費、想定工期、所要時間(時間短縮効果)、投資効果をまとめて【別表】の通り伝えた。

【別表】​
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 このうちフル規格は、時間短縮効果や投資効果が最も大きい半面、建設費も巨額。ルートは佐賀駅経由の延長51kmで工期は12年程度。

 国がフリーゲージトレイン(新在直通電車、FGТ)の開発を断念したのにともない、佐賀県が主張したスーパー特急は武雄温泉―長崎間の「やり直し工事」費が1,400億円程度、工期10年程度と報告された。博多―長崎間の時間短縮効果は35分程度。武雄温泉―長崎間がフル規格で開業し、武雄温泉駅のホームで特急と新幹線を乗り継ぐのと同じ時間短縮効果だった。

 在来線の線路幅を広げるミニ新幹線は、工事と列車運行の両立を強いられる。工期は単線を併設する工事で10年程度。1対2本のレールを敷設する線路で片方のレールを共通化して、残り2本のレールを各軌道間に合わせて敷設する複線3線軌工事は14年程度。JR九州の猛烈な反対が容易に想像できる。

 結局、整備方式の協議の行方は、フル規格を除くと、佐賀県が線路工事が不要なFGТ開発の再開を主張し、国が開発再開に応じる場合が、選択肢の1つとして残る可能性がある。それを意識してか、佐賀県庁内では「時速270kmのFGТの安全性が保てないなら、国が時速200kmのFGТ開発を再開すればいい」(交通政策課)という意見も。

長崎県側は佐賀県知事に不信感

嬉野市で行われた意見交換会

 佐賀県庁外では、フル規格による長崎ルートの全線開業に向けた動きが加速し始めた。22年秋に開業する嬉野温泉駅の工事が進む嬉野市の旅館に、長崎県と佐賀県の地方議員や経済人ら40人あまりが集まって、長崎駅―新大阪駅間直通の全線開業を念頭に意見交換。この席で長崎県側は、中村法道知事が佐賀県の山口祥義知事に直接会談を申し入れても、「新しい提案がない」として話し合いさえ拒み続けていることへの不信感を露わにした。

 新幹線駅が開業する長崎、諫早、大村3市の市議らでつくる長崎県下市町議会新幹線推進連絡協議会長の毎熊政直長崎市議は、「国などから佐賀県を刺激しないよう依頼されていたので、2年ほど活動を控えてきた。今後は佐賀県や県民の皆さんにお願いすべきはお願いする」と“通告”した。

 前日の佐賀県との協議では、国交省の足立幹線鉄道課長が長崎県やJR九州との3者協議の場を速やかに設けると発言していた。会合に参加した佐賀県フル規格促進議員の会事務局長の西岡真一佐賀市議は、「『新幹線に対する佐賀県知事の真意がわからない』という長崎側の主張はうなずけた」と明かす。22年秋開業の発表後も、開業機運を盛り上げようとする県主導の動きはない。

 一方、長崎県では大村市で31日、県が「新幹線フォーラム」を開催。指宿市の観光協会長を招き、2011年3月の九州新幹線鹿児島ルート全線開業時の歓迎演出やご当地グルメ・スイーツの開発といった参考事例を紹介してもらう。長崎県は諫早市や長崎市でもフォーラム開催を予定しており、「わが街に新幹線が来るメリットは何か、広く県民に考えてほしい」(新幹線対策課)と話している。

 長崎県区間のJR佐世保線は、県がJR九州に委託して1989年から、14億円を投じて高速化工事を単独で進めている。こちらも2年後に完成する見込みだ。JR九州は、新幹線などに使われている継ぎ目のないロングレール上を走る時速130kmの高速特急を投入する計画。しかし佐賀県区間の佐世保線武雄温泉駅―有田駅間は整備計画がなく、高速効果が“減速”する。

 備えが手薄な佐賀県の最大の難点は、長崎線を使い続けるのに知恵を絞り続けてきたため、仮に新鳥栖―武雄温泉間のフル規格整備を協議する場合も、ゼロベースからの話し合いになる可能性があるという。

 旧国鉄が環境アセスを実施した佐賀駅経由ルート以外、佐賀県交通政策課によると、長崎自動車道とほぼ並行する北ルート、果ては鹿児島ルートの筑後船小屋駅から分岐して佐賀空港を経由する南ルートさえある。このため、新幹線建設の主体になる鉄道運輸機構が国費で実施する環境アセスのためのルートではなく、国交省がルート選択の適切さを確認する目的の調査予算が与党内で検討されている。

【南里 秀之】

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