2024年12月22日( 日 )

ストラテジーブレティン(263)~コロナパンデミックの経済史的考察(6)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2020年10月22日付の記事を紹介。


(4) 財政・金融節度という呪文からの解放(つづき)

痛恨極まる東日本大震災時の日本のデフレ促進政策

 ただしコロナという未曽有の天災に対して資金を出し惜しみする対応を行い、兵力の逐次投入という弥縫策が続けられれば、景況が大不況に急転する可能性もある。この政策の逆行のリスクは、注意深くモニターされるべきである。

 その悪しき前例は、東日本大震災後の日本の民主党政権と白川総裁率いる日銀である。2011年4月に日本学術会議は「東日本大震災への緊急提言」を発表し、復興財源として日銀引受を否定し、復興増税を勧めた。

 実際に、この提言は民主党政権によりで実行に移され、災害時に増税という倒錯した政策が打ち出された。また震災手形の再発を懸念した日銀の消極的金融政策は日本の実質金利を大きく引き上げ(図表8)、11~12年の70~80円台という著しい円高の定着をもたらし、震災の打撃に加えて円高による競争力低下が、日本企業と経済を痛打した。半導体、液晶、スマートフォンなどのハイテク産業集積に致命的影響を与えた。

 図表7はドル円レートとG7の為替協調介入の推移であるが、過去5回の協調介入のうち4回はすべて為替トレンドの大転換点となってきた。しかし11年3月18日の、東日本大震災支援のためのG7協調介入のみは、円高トレンドの転換に失敗した。痛恨極まる日銀の失策といえよう。図表9は反経済主義に支配されていた非自民政権の下でのみ、100円以上の円高になってきたことも、重く留意されるべきであろう。

 アカデミズム、メディア一体となったこの誤った思想の蔓延の弊害は、深く反省されるべきである。財政節度、金融節度という今の時代にまったく適合していない呪文から解き放たれることは、本来もっとも必要なことであった。

コロナで格差拡大、所得再分配、経済弱者の救済が必至に

 コロナパンデミックにより、デジタル社会での格差拡大が顕在化した(図表10参照)。今回の米国大統領選挙で露呈した両極の対立、トランプ支持に結集した右派の「poor white」と左派の「Black Lives Matter」下に結集する黒人・有色人など人種的被差別者の対立は、米国民主主義の担い手であった中間層の没落を遠景としている。

 選挙後の国内統合のためには、今明らかになった低金利・過剰貯蓄という経済情勢を利用し、財政を活用した社会的セーフティネットの構築が緊要となっていくだろう。MMTの主唱者であるステファニー・ケルトン教授はバイデン候補側の経済アドバイザーである。

 大恐慌が「ゆりかごから墓場まで」の近代的社会保障制度の起点になったように、コロナパンデミックが社会的セーフティネットの飛躍的拡充、ユニバーサル・ヘルスシステムの登場、ユニバーサル・ベーシックインカムの時代を開くかもしれない。

(つづく)

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