2024年11月19日( 火 )

EV(電気自動車)化が急進するインド~モディ政権のEV推進で3輪、2輪が先行(後)

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 インド・モディ政権は、貿易赤字解消のための石油の輸入減や大気汚染の解決などを目的に、電気自動車(EV)推進政策を実施。インドの自動車(4輪)市場は、中国、米国、日本に続く世界第5位(2019年)の規模を誇り、政府はEV普及率を30年までに30%に高める方針を掲げており、なかでも需要が高い2輪・3輪車のEV化が先行している。

インフラがなくても普及する3輪EV

インドの街中を走るEリキシャ(3輪EV)

 3輪EVはインドでは主にタクシーとして使われるため、1日の走行距離も100km以下で、1日1回の自宅のコンセントの充電でほぼ間に合うため、充電ステーションなどのインフラが整っていなくても普及している。テラモーターズの3輪EV販売台数は年間約1万5,000台(2019年度)で、インド3輪EVシェア1位で約15%(同)を占める。

 テラモーターズの3輪EVの価格は17~18万円で、インド人口の多くを占める年間所得4,000~5,000ドル(約40~50万円)の20~40代が対象。ほとんどの人がローンを組んで購入するため、所得が低く通常のローン審査に通らない場合でもローンを組めるように同社はマイクロファイナンスを行っている。

 インドでは、3輪ガソリン車の価格は30万円弱と高価であるため個人で買うのは難しいケースが多く、所有者であるオーナーに賃貸料を払って借りると手元に利益が残らない。上田氏は「オートリキシャ(3輪ガソリン車)を借りるよりもマイクロファイナンスでローン組んでEリキシャ(3輪EV)を購入した方が、収入が向上することが3輪EVの購入の主な理由。加えて、政府も政府が保証する無担保ローン対象品に3輪EVを挙げていることも普及の後押しになっている」という。

 マイクロファイナンスのローンでは、IoTデバイスを3輪EVに搭載して各車両にトラッキング機能をもたせることでローン回収率を高めている。今は現地の金融機関と提携しているが、今年12月頃からは自社の事業とする予定だ。

 また、3輪EVは低価格化のためインド現地メーカーの鉛蓄電池を搭載しているが、鉛蓄電池の耐用年数は1年ほどと短い。蓄電池が使えなくなるとローンの債務不履行になりやすいことも踏まえ、来年以降にリチウムイオン蓄電池の搭載機種を発売する予定。価格は上がるが2~3年の耐用年数があり、ローンの回収率アップが見込まれるため問題ないと考えているという。

 インド政府は、インド国内でリチウムイオン蓄電池のEVを組み立てる製造業に対し補助金(フェーズ2)1,500億円を支給しており、実質的には販売価格を1台あたり5~8万円、抑えることが可能となるため、上田氏は「補助金を活用すれば、リチウムイオン蓄電池車を鉛蓄電池とほぼ同じ価格で販売することが可能」という。

 インドは製造大国の中国と緊張状態にあるため、これは自国製造業を振興する「Make in India(インド国内製造)」政策の1つでもあるが、現実問題としては製造業の中国依存は根深いため、「製造業自国化」は一筋縄には進まないと予想されている。

インド・グルガオンに研究開発拠点

 テラモーターズは国や地域のニーズに根差した商品をつくるため、研究開発拠点をインドのハリヤナ州・グルガオン(首都デリーに近く、急速に発展を遂げているビジネス都市)で行っている。生産は、インドに先行する3輪EVの技術をもつ中国とインドの両方で行っているが、将来はインドへの生産シフトを計画している。

 上田氏は「インドではトヨタやホンダ、スズキなど日本車が多く、日系企業への信頼が厚い。品質の高さを求めることは前提だが、異業種が参入しやすいEV業界で独自技術や製品ノウハウを他社と差別化しても海外ではすぐにまねされてしまうため、現地のニーズに応えることとアフターサービスに注力している」と話す。テラモーターズは来年の夏頃に、インドで2輪EVを販売価格およそ7~8万円で発売する予定だ。

将来の移動コストはほぼゼロに?

 インドではモビリティの他、キャッシュレス、フィンテック、デジタル広告の成長が著しく、2020年のデジタル広告市場は2,000億円だが、2年後には約4,000億円に伸びると予想されている(Dentsu Aegis Networkのインドデジタル広告報告書2020より)。テラモーターズでは、3輪EVに搭載したディスプレイにビッグデータを使って広告を表示するデジタルサイネージ広告への参入を計画している。

 上田氏は「移動にかかるコストは人件費、車体費、燃料費。しかし、車体費は広告料収入による代用、燃料費はガソリン車よりランニングコストが安いEVで低減が可能で、さらに自動運転が普及すると考えられる。そのため、広告を提供し取得したビッグデータを活用することで、将来的には移動コストをほぼゼロにすることも可能になるだろう」と話す。

 人口増加が著しく自動車需要が高いインドは、EV市場が今後大きく成長する可能性を秘めている。

(了)

【石井 ゆかり】

(前)

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