2024年11月22日( 金 )

地元主導で再エネの「地産地消」革命~地域経済の循環とエネルギー自給化へ(前)

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 地元主導による太陽光、水力、バイオマスなどの再生可能エネルギー(以下、再エネ)の電力供給が進んでいる。地域でつくった電気を地域で使う再エネの「地産地消」で地域経済の循環を目指し、地域の環境を守る各地の取り組みを紹介する。

地域経済を循環

新電力おおいた(株)
代表取締役社長 山野 健治 氏

 「地熱や太陽光、水力などの再エネ発電所が多い大分県は、再エネ自給率が全国1位。しかし、県外の事業者がほとんどのため、電力自由化以前は電力使用料として年間1,000億円以上が県外に流出してしまっていた。大分でつくった電気を大分で使うことで、「県外に」という流れを県内へと戻し、地域経済が循環することを目指している」と、電力小売業(新電力)の新電力おおいた(株)代表取締役社長・山野健治氏は話す。

 太陽光パネル検査装置などを製造する(株)デンケンは、2015年8月に子会社の新電力おおいた(大分県由布市)を設立。同社には(株)大分銀行、江藤産業(株)、(株)大分フットボールクラブ、由布市など理念が合致した大分県内の企業や自治体が出資しており、売上高は8億1,300万円、経常利益は9,000万円(2020年3月期)。

 新電力おおいたは、デンケンが建設、運営する大分県内5カ所、熊本県内2カ所のメガソーラー(計約8MW)、湯布院の地熱発電所2カ所(各50kW、運営:湯布院フォレストエナジー(株)、OTE大分(株))から電力を調達。これらは電源構成(調達電力)のうちの約25%を占め、火力、原子力、水力、FIT電気、再エネなどを含む日本卸電力取引所(JEPX)ほかは約38%、九州電力の常時バックアップ電力(JBU)は約37%だ。

 太陽光発電は平日昼間や土日などに発電量が需要量を上回るとインバランス料金の支払いが発生するため、新電力が太陽光発電だけから調達を頼るのは難しい。山野氏は「蓄電池価格が今の10分の1に下がったら、変動しやすい太陽光発電も調達しやすくなるだろう。太陽光パネルなどの資材価格は、13年の参入当時と比べて半額近くまで下がった。補助金に頼らずに発電した電力を自家消費できる環境まで、もう一歩ではないか」と語る。

 太陽光発電のFIT期間の終了後は、維持管理コストが負担になりにくい水力発電に注目しており、大分県企業局の水力発電所の買い取り交渉を進める。地熱発電は、発電設備に温泉成分が付着して維持管理コストがかかるため、規模を大きくしなければ収益化は厳しいという。

ソーラーで災害避難所の停電対策

 電力小売業においては大手電力会社の力が強く、九州の新電力シェアは約10%弱。新電力おおいたの大分県内シェアは約0.6%だが、10年後には5%を目指す。契約者数を増やし事業規模を拡大することで、再生可能エネルギーの調達先を増やしたいという。山野氏は「株主企業などと連携した大分の地元企業だからこそ、消費者が契約を切り替えてくださる」と話す。印刷やウェブ制作、広告代理店なども大分県内の企業に発注し、地元経済の活性化を目指す。FIT買い取り期間が終了する太陽光発電は、電力の自家消費が必要だと考え、エコキュートを昼間稼働させて自家消費効率を高める「SUN給プラン」を昨年秋に開始した。

 また、地震や豪雨対策として、由布市の避難所として利用される「湯布院福祉センター」にソーラーパネル、ポータブル蓄電池を設置し、停電時も避難者が電気を使えるように工夫した。自治体の初期負担はなく、新電力おおいたと自治体が電気の売買契約を結ぶ「PPAモデル」で20年後に無償譲渡する。将来は、自治体コミュニティバスのEV化による再エネ利用も目指す。

湯布院福祉センター

大隅半島の4市5町と連携

 おおすみ半島スマートエネルギー(株)(鹿児島県肝属郡肝付町)は、電力小売業としてエネルギーの地産地消・地域内経済循環を理念に2017年1月に設立された。肝付町の公共施設の電気代は年間数千万~数億円に上るため、1割でも削減し、代わりに地元企業の設立、雇用の創出、地域経済の循環を生み出し、人口増や税収増による地方創生を目指す。

 同社は肝付町が3分の2、地元企業が3分の1を出資する第三セクタ―。九州電力より単価を下げることで、利用者にメリットが生まれるため、肝付町では法人約7~8割のシェアをもつという。売上高2億7,777万円、経常利益2,417万円(20年3月期)。大隅半島の肝付町、錦江町などの4市5町と連携し、再生可能エネルギーの地産地消に取り組む。

(つづく)

【石井 ゆかり】

(後)

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