【ラスト50kmの攻防(16)】並行在来線の協議は経営分離前提にせず JR九州
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整備方式をめぐる議論、軟着陸は可能か
佐賀県議会の新幹線問題対策等特別委員会が11月2日、九州新幹線長崎ルート「新鳥栖―武雄温泉」間のフル規格整備にともなう並行在来線の扱いを審議した。参考人のJR九州の古宮洋二専務はその席で、「並行在来線を協議する場合、必ずしも経営分離を前提にしない」と言明。ただし並行在来線に相当する区間は「国交省と佐賀県の協議を見守る」と言及を避けた。
長崎ルートは、武雄温泉―長崎間が2022年秋開業の見通し。博多―新鳥栖間と結ぶ新鳥栖―武雄温泉間の整備方式で国交省と佐賀県が協議を重ねている。
同区間の整備方式で国交省、長崎県、JR九州は、政府が1973年に長崎ルートの整備計画を閣議決定した全線フル規格ですでに一致している。しかし佐賀県は、フル規格整備は県の財政負担が大きく、開業後にJR九州が並行在来線を経営分離する懸念があるなどと主張、整備方式を決めていない。このため県議会が、県と国交省/JR九州との間に入り、協議の“軟着陸”を目指す。
特別委では、原田寿雄氏(自民)ら4人が、並行在来線の扱いや新鳥栖―武雄温泉駅間のルートなどを尋ねた。古宮氏は、並行在来線の定義について「法令上の定義はない。新幹線の開業後、JRが在来線利用者の一定程度が新幹線に転移すると見込む区間」と説明した。
JR九州が公表した在来線の線区別の1日当たり平均通過人員は2019年度実績で▽長崎線・鳥栖―佐賀(営業距離25km)2万9,817人▽佐賀―肥前山口(同14.6km)1万9,692人▽佐世保線・肥前山口―佐世保(同48.8km)5,994人。
新鳥栖―武雄温泉間の着工前に、JR九州は在来線の通過人員のうち新幹線への流出人員を予測して並行在来線区間を特定。沿線市町を含め佐賀県と扱いを話し合う。
揺らぐ「合意」事項
国交省の整備新幹線問題検討会議は09年12月、未着工区間の新規着工に5つの条件を付けた。その1つが並行在来線の経営分離に関する沿線自治体の同意だ。
08年4月、武雄温泉―長崎間の着工前、JR九州は並行在来線を長崎線・肥前山口―諫早間(同60.8km)と特定。長崎県や佐賀県、沿線市町に対して経営分離を伝えたが、佐賀県側が猛反発、協議は難航した。結局、JR九州は同区間の鉄道施設を佐賀県と長崎県に無償譲渡し、列車は新幹線開業後も20年間運行する「上下分離方式」で折り合った。
この経緯を踏まえ、古宮氏は「並行在来線の論議は、経営分離を前提にせず、沿線市町を交えて佐賀県と十分論議する」と繰り返した。並行在来線区間は、国交省と佐賀県の整備方式協議が詰まっていないとして明かさなかった。
正式ルートが決まっていない新鳥栖―武雄温泉間について、古宮氏は「新幹線開業の最大の営業効果を考えると、バスセンターが隣接する佐賀駅経由ルート以外にない」と断言。長崎自動車道と並行する北ルートや佐賀空港を経由する南ルートは「到底考えられない」と一蹴した。
整備新幹線は、11年3月の九州新幹線鹿児島ルートの開業によって、政府が建設効果を見直す転機となった。とくに東海道・山陽新幹線の新大阪駅と鹿児島中央駅の直通列車の誕生が、九州の地域経済の浮揚に貢献した。政府は7月に作成した「骨太方針2020」で整備新幹線を人流・物流ネットワークと位置付け、早期整備を後押しする。
JR九州とJR西日本の相互直通列車の本数は、全線開業時の1日16本から現在は24本に増えた。山陽新幹線は東海道新幹線に直結する東京―博多間の直通列車も走り、ダイヤは過密気味。相互直通列車の増便は容易ではないという。
フリーゲージトレイン(FGT、新在直通電車)の最高時速は270km。山陽新幹線走行に必要な時速300kmを満たせないため、長崎ルートと山陽新幹線の直通列車を考えるとFGTは厳しい。しかもFGTの車両コストは新幹線の1.9倍から2.3倍と割高。車両を購入しても、博多―武雄温泉間以外のどの路線に使うのか。JR九州は導入を断念した。
特別委で質問に立った藤崎輝樹氏(県民ネットワーク)は、「長崎ルートの整備は、新鳥栖―武雄温泉駅間は在来線活用、武雄温泉―長崎間はスーパー特急、FGTの組み合わせで進めると何度も確認してきた」と過去の合意の大切さを強調した。
これに対し古宮氏は「確認事項はその時点ではベストだった。ただ取り巻く周辺環境は変化しており、私たちも学びながら経験を積み重ね判断してきた。次のステップをどうするか。先のことを考える必要がある」と応じた。
佐賀県議会の11月定例会が26日開会する。この日の特別委の審議が、山口祥義知事らとの質疑にどう反映されるか。注視したい。
【南里 秀之】
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