【ラスト50kmの攻防(17)】膨らむ建設費 財源をめぐる綱引き
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揺れる「財源スキーム」
北陸新幹線「金沢―敦賀」間(125km)の開業が22年春から1年半ほど延期され、建設費も3,000億円近く追加される見通しになった。九州新幹線長崎ルートと北陸新幹線の未着工区間をめぐる財源スキーム(枠)の抱き合わせ論議に微妙な影響を与える可能性もある。
11月11日。与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT)に対し、国交省は北陸新幹線・金沢―敦賀間の開業延期と建設費の2,880億円増額を報告した。同PT座長の細田博之衆院議員(島根1区)は「報告は了承できない」と気色ばんだ。
13日の閣議後会見で赤羽一嘉国交相は、検証委員会を設置して工期短縮と建設費削減の対策をまとめ、12月中に明らかにするとした。国交省によると、(1)石川、福井県境の加賀トンネル(延長5.5km)でコンクリート打設を終えた路盤が膨らんで亀裂が発生し補強工事を迫られたこと、(2)敦賀駅舎の建築工事と周辺の土木工事を並行施工した現場のエリアが狭く、熟練作業員が必要になったが、集めきれずに工期内に終えられなくなった――の2点が主因という。さらに用地交渉に手間取って、工事の発注が19年度に集中したのも大きかった。今春に入ってコロナ禍と重なり、現場労働者の確保が厳しくなって賃金が高騰。夏以降、入札の不調や不落が相次いでいた。
この区間は、2012年6月の工事実施計画認可時には「26年春」の完成予定になっていた。それが15年1月に「23年春」に3年前倒しされた。結果、工期は当初より短くなる可能性が高いものの、その“努力”が建設費のアップにつながった。
現行の財源スキームでは、建設費は既存新幹線を経営するJR各社が鉄道・運輸機構に支払うリース料(貸付料)、国の公共事業費関係費、地域負担金(沿線の道県と駅舎設置の市町が負担)で賄う。ただリース料は、国と地域の負担割合のように法律によって明記されておらず、計算基準は「JRの受益の範囲内」とされる。「事実上のブラックボックス状態」(石川県新幹線・交通対策監室)との批判は少なくない。
国交省は19年4月、同区間の建設費2,263億円の増額を認めたばかり。それから2年足らずで2,880億円の追加。「増額分をどう手当てするか、何も決まっていない。まず検証委員会が開かれないと」と同省鉄道幹線課。
石川県と福井県の20年度一般会計当初予算はそれぞれ5,784億円と4,191億円。3,000億円近い増額は大きい。両県の担当者は異口同音に「建設費の増額分を地域に押し付けるのは筋違い。国が全部持つべき」と主張する。しかし一方で、県内に未着工区間が存在する福井県は「金沢―敦賀間の開業延期の話と、残る敦賀―新大阪間の財源スキームをどうするかは、まったく別の問題。敦賀―新大阪間は環境アセスメントが進行中で、22年冬には報告書がまとまる。その後は速やかに工事実施計画の認可を申請し認めてもらい、切れ目なく工事を進めてほしい」(新幹線建設推進課)と意欲的だ。国交省も、「『切れ目なく着工したい』という考えを尊重する。金沢―敦賀間の開業が1年半延期するからといって、長崎ルートの新鳥栖―武雄温泉間を含めた次期財源スキームの論議がその分、延びるわけではない」(幹線鉄道課)と指摘する。
長崎ルートへの影響は
一方、現行の財源スキームで工事が進む長崎ルート「武雄温泉―長崎」間について、長崎県は「22年秋の開業に影響はない」(新幹線対策課)としながらも、「今回の北陸新幹線の建設費の増額は、次の財源スキームを論議する際、何か影響するかもしれない」と不安を隠さない。
佐賀県は次の財源スキーム協議への影響について、「新鳥栖―武雄温泉間の整備方式は国交省と協議中なので何とも言い難い」(交通政策課)とコメント。武雄温泉―長崎間に関しては「JR各社が支払うリース料が、路線別ではなくプール制になっているため、北陸の増額分に回されると、長崎への配分がどうなるか気がかり」と話す。
与党整備新幹線建設推進PTでは、次期財源スキームではJR各社が「受益の範囲内」で負担するリース料の支払い期間を、現行の30年から50年に延長する案が浮かんでいる。
これに対しJR西日本の長谷川一明社長は「敦賀以西の“切れ目ない着工”を求める」とする半面、「JRのリース料の支払い期間を延ばすと、その間に車両の更新費など追加投資が要る。投資が増えると、受益は小さくなる」とJRの負担増をけん制する。
現行の財源スキームは、まずJR各社のリース料を充て、残りを国と地域(地方)が2対1の割合で負担するとしている。ところが、今回のように建設費が急増すると、「どこが、どれだけ負担するか」が沿線自治体を含め第三者にはわかりづらい。
建設費を100とした場合、JRのリース料が概ね半分、残りを国と地域(地方)が折半負担とされる。環境負荷が軽い基幹的な高速輸送体系整備に、国がはたす役割はもっと大きいはずだが。
【南里 秀之】
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