麻生グループの御曹司、麻生巌氏は、投資家・孫正義氏になれるか~日本の台所・豊洲市場の東都水産に友好的TOBを実施(4)
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ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は投資家であり、10兆円ファンドを組成して、スタートアップ企業に次々と投資し、活躍の場を世界に広げている。筑豊の名門、麻生グループの御曹司、麻生巌氏は株式市場で活躍しており、日本の台所、豊洲市場の東都水産(株)に投資する。麻生氏は第2の孫正義氏になれるか。
(株)麻生は101社の麻生グループの統括会社
麻生グループは、1872年に麻生太吉氏が福岡県筑豊で炭鉱事業に踏み出したことが始まりで、石炭、セメントで財を成した筑豊の名門だ。(株)麻生は福岡県飯塚市を拠点に病院・学校を経営する麻生グループの統括会社である。
麻生巌社長は、副総理兼財務相の麻生太郎氏の甥。父親の麻生泰氏は九州経済(連)会長で、母方の曽祖父は吉田茂元首相である。
巌氏は1974年7月生まれの46歳。慶應義塾大学経済学部を卒業、ケンブリッジ大学に留学した。2000年に家業である麻生セメント(株)(現・麻生)に入社。10年、父・泰氏の後を継いで麻生の社長に就いた。
麻生グループは101社、グループ総売上高4,147億円(20年3月期)。グループ全体で社員1万4,318人を擁する。麻生の有価証券報告書によると、2020年3月期の連結決算は、売上高が前年同期比16.7%増の2,312億円、営業利益は2.2%増の129億円、純利益は66.9減の40億円。1株あたり配当金は25円。
筆頭株主は(学)麻生塾の18.89%。2位が麻生泰氏の5.35%。社長の麻生巌氏は3.97%で7位の株主である。
「物言わぬ株主」麻生氏の投資手法
麻生巌氏の投資手法を見てみよう。社長に就いてからは、13年に出版社(株)ぎょうせいを買収して傘下に収めた。ぎょうせいは、過去に米誌『フォーブス』の日本版を出していたことで知られる。
麻生が投資家として株式市場に登場するのは、2017年。富士通系の情報システム会社、都築電気(株)(東証一部)の第三者割当増資を引き受けて、第2の大株主になり、麻生巌氏が取締役(現在は退任)に就いた。麻生は20.29%(20年3月末時点)を保有する筆頭株主だ。
麻生は、住友グループの鉱業事業の統括会社、住石ホールディングス(株)(東証一部)の10.45%(20年3月末時点)を保有する筆頭株主。さらに果樹や野菜の農薬向けに全農を通さずに販売する農薬中堅のアグロカネショウ(株)(東証一部)の15.16%(20年6月末時点)を保有する、これまた筆頭株主だ。
基礎工事の日特建設(株)(東証一部)については、麻生の完全子会社(株)エーエヌホールディングスが55.00%(20年3月末時点)を保有し、傘下に組み入れている。
印刷と葬祭を手がける(株)廣済堂(東証一部)のTOB合戦に、麻生が登場して、大きな話題になった。創業家と経営陣の対立に端を発して、多くの投資家が群がった。投資家の村上世彰氏が関与する投資会社レノが、今年2月、市場外取引で廣済堂株を麻生に譲渡。麻生は従前から保有している分と合わせて、19.49%(20年3月末時点)を保有する筆頭株主に躍り出た。
廣済堂は、子会社として都内に6カ所の火葬場を運営する東京博善(株)がある。麻生は、火葬場を狙った国内外の投資家に対する防波堤になろうとしているように見える。
麻生巌氏の投資手法は、相手の経営陣と友好関係を保ち、安定株主になるという点では一貫している。村上世彰氏のように行動する投資家であるアクティビスト、「物いう株主」ではない。麻生氏は「物言わぬ株主」であり、相手側の経営陣にはありがたい存在だ。
投資に失敗したら、麻生グループの屋台骨が揺れる。投資は慎重でなければならない。そこで打ち出したのが、筆頭株主として安定株主になる投資手法だ。
孫正義氏は、自らを「冒険的投資家」と称している。麻生巌氏は冒険的投資家ではない。第2の孫正義氏にはなれないし、なるつもりもないだろう。
(了)
【森村 和男】
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