2024年12月23日( 月 )

負けを認めないトランプ大統領に見る精神的若さの可能性と限界(4)

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。今回は、2020年12月4日付の記事を紹介する。


 思えば、多くの人々にとって自分が病気であるのか健康であるのか、その区別や境界は極めてあいまいになっているのではなかろうか。たとえ医者から特定の病名を与えられ、薬を処方されたとしても本当にその病名や薬が自分の症状に合致しているのかどうか、怪しいものだ。すべての判断を1人の医者にゆだねてもいいのかどうか。ランガー教授によれば、「これほど危険なことはないだろう」ということである。

 言い換えれば、自らの肉体の変化に自ら意識して向き合うことで病気を防ぎ、病気を克服できれば、自然に若返りも可能になるというわけだ。自分自身の体に起こる、そして心に浮かぶ変化に対し注意深くなることが欠かせないというのである。今、アメリカでは日本以上に健康指向の人々が増えている。ベビーブーマーの間では年を取ることに対する恐れの気持ちも広がり出している。これをプラスに活かせば、社会の若返りも可能になるだろう。

 ランガー教授によれば「より重要な改革は1人ひとりの患者あるいは国民が自らの健康管理に大胆な発想で取り組むことから始まる」とのこと。70代から80代の高齢者を対象に、その後もランガー教授はさまざまな意識と肉体の関係を明らかにする実験を続けている。

 たとえば、老人ホームにて、植物を育てる自由を与えられたグループと、部屋に植物は飾ってもらうものの、その世話はすべて看護師が行うという環境に置かれたグループを対象にした実験も、興味深い結果をもたらした。

 自分たちで世話をする花を選び、水や肥料の具合をたしかめるなど日常的な世話をやくことになった高齢者たちは、すべて世話してもらった高齢者たちと比べ、遙かに明るく元気な生活を送るようになった。その結果、寿命も遙かに長くなったというのである。

 実は、この実験では植物の世話を自主的に任されただけではなく、このグループの人々は見たい映画を自分たちの希望する時間に見るために皆で話し合いをもち、コンセンサスを経た上で観賞する機会を手に入れたのである。もう一方のグループは看護師たちが決めた時間と場所で映画を見るだけの生活パターンであった。

 また、家族や知人が面会にきた際にも、前者のグループはどこで訪問者と会うのか、場所や時間も自らが決めるという自由が与えられた。要は、自分のお気に入りの場所でお気に入りの飲み物やお菓子を食べならが、来訪者との会話を楽しんだのである。一方、後者の人々には施設が決めた場所で決められた時間しか面会が許されなかったという。

 こうしたさまざまな生活の場面において、自らが主体的に判断し、選択をしていくという環境に置かれた人々は結果的に長寿を手にし、生活に自信と喜びを感じるようになったというわけだ。これは何もアメリカの高齢者のみに当てはまることではなく、日本でも十分参考になる実験データと思われる。いくつになっても自らの判断で行動を起こすことが、その人にとっても周りの人々にとっても有意義な時間をもたらしてくれることになるのであろう。

 70歳になったから、あるいは80歳を過ぎたから、こうでなければならないという周りの目や無言の圧力によって自らの生命力を削り取られてしまっているケースが多々あるのではなかろうか。現代の医学や科学は大きな原則を明らかにしているに過ぎない。すべての病気やその症状には、必ず例外が存在している。

 すなわち、「一見病気と見えても何でもない」というケースもあるはずだ。1人ひとりがそうした例外となる心意気とでもいうべき意識の変化を味方につけることができれば、75歳であっても55歳と遜色のない生き方ができるだろう。

 こうした研究成果を実際のビジネスの現場でも応用することで、新たな成長産業が生まれるに違いない。アメリカのGoogle本社では未来研究者のカッツウェル博士をトップに据え、新たな健康長寿ビジネス部門を立ち上げた。人間の意識が細胞の活性化にどう影響するかを研究し、AI(人工知能)やIoT(インターネット・オブ・シングス)と人間の融合を可能にする道を見出そうという試みだ。同教授に依れば、「2045年までにBCI(ブレイン・コンピュータ・インターフェース)が実現し、人間の知力と生命力は10億倍に増える」とのこと。

 これまで自然な生き方と思いやりの人間関係で世界に冠たる長寿大国を実現してきた日本であるが、これからは新たな発想を取り入れる必要がありそうだ。いずれにしても、わくわく感が健康長寿のカギを握っていることは間違いないだろう。


著者:浜田和幸
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