2024年12月22日( 日 )

ストラテジーブレティン(268号)~2021年、最大のリスクは回復力の過小評価(後)

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 Net IB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2020年12月21日付の記事を紹介。

2021年、強烈な短期循環の上押し圧力が顕在化する

 前編で取り上げた5つの要因のうち(4)の世界的空前規模の財政拡大と金融緩和、および(5)イノベーション(ネットデジタル、新エネ、脱中国サプライチェーン構築)の加速はこれまでのレポートでも説明していることであり、詳細な分析は次号に回したい。

 ここで、強調したいポイントは、短期景気循環の強烈な押上げが起きる可能性があるということである。つまり(2)製造業景気ミニサイクルの回復と、(3)ペントアップディマンドの強さである。この短期景気循環の押上げこそ、19年末、武者リサーチが20年を強気に考えた根拠であった。それが21年に後ずれして起きると考えられる。

武者リサーチは1年前、何を見ていたか

 以下は、1年前のレポート(241号、19年12月23日付)からの抜粋である。

 現在が米国の長期好況の終わりなのか、それともミニリセッションの底入れ局面なのかが、ここ1年間の経済論争の焦点であった。多数派の意見は2009年以来10年にわたって続いた史上最長の景気拡大の終焉が間近い、というものであったが、その可能性は当面なくなり、2020年中も景気拡大が続くとする見方が大勢となっている。オランダやオーストラリアでは20年を越える景気拡大が続いた例があり景気拡大に寿命があるわけではない。

 ただ長期景気拡大のなかにもミニサイクルがあり、市場はその影響を受けている。最近では2015年春ピーク、2016年央ボトム、2018年春ピーク、2019年秋ボトムとなっている。2018年半ばからのミニ後退は、スマホや自動車の買い替えサイクルでピーク感が強まっているときに、米中貿易戦争が勃発し、不透明感から多くの投資案件が棚上げされたことによって起こった。しかし今、買い替えサイクル一巡とともに、米中貿易戦争の不透明感も解消されつつある。ミニサイクルは2019年で底入れし2020年にかけて反転する可能性が強いのではないか。

中国需要は安定化へ

 この3~4年の景気ミニサイクルは、貿易と投資によって変動しており、いずれも製造業の景気循環といえる。米国の場合製造業の国民所得に占める割合は11%と中国29%、ドイツ22%、日本21%に比して著しく小さく、循環の波を小さくしている。製造業分野では、自動車もスマホも鉄、セメントも今や中国が世界最大の市場であり、世界の製造業景気循環は米国以上に中国が波をつくっている。

 2018年以降の世界経済ミニ循環の落ち込みは、中国内需の悪化によって引き起こされた面が大きく、今はその底入れ反転の局面にある。落ち込みの主因である自動車需要が底入れし、内需を抑制してきた体質改善のための金融引き締め、インフラ投資抑制策も大きく転換されている。金融緩和により不動産価格は上昇し不動産投資も押し上げられていくだろう。加えて2018年春以降の落ち込みをけん引した貿易戦争による不確実性が、消えた。棚上げされていた投資は復活し、第三国(たとえば台湾)では新規投資が起きる。

5G関連、半導体投資飛躍の兆し

 さらに5Gなど新技術投資が始まり、最先端半導体などで競争先行のための投資が活発化し始めている。中国は5G投資実績で他を引き離す構えで、中国国内での5Gハイテク投資が急増、他国もそれに引きずられて投資競争が始まりつつある。

 たとえばTSMCの半導体製造装置発注額は7~9月は77億ドルと過去の10~20億ドルベースを大きく上回った。2019年まで休止していたデータセンター投資も5Gをにらんで活発化する様相である。2018年以降の米中摩擦激化による中国半導体投資の一時休止が、半導体の需給の想定外の改善を引き起こす可能性があるのではないか。もっとも製造業景気変動に敏感な米国半導体株が最高値を更新している。

市況向上、景気と業績の上方修正が続出する兆し

 以上のように、19年末に分析した製造業主導の「景気ミニ循環」が、新型コロナというブラックスワンの来襲にもかかわらず、生きていることが重要である。すでに鉄鉱石、銅、アルミなどの商品市況は7年前の水準にまで回復している。

 また、各国の経済見通しの上方修正が相次いでいる。米FRBは9月から12月の間に、20年のGDP成長率を前年比-3.7%から同-2.4%に、21年を同4.0%から同4.2%へと修正した。台湾の中央銀行も9月から12月の間に今年のGDP見通しを同1.6%から同2.6%に、来年を同3.3%から同3.7%へ修正した。中国から通関凍結などの嫌がらせを受けているオーストラリアですら、20年度のGDP見通しを同-1.5%から同+0.75%へと引き上げた。鉄鉱石の市況上昇の恩恵を受けているとみられる。

日本株世界金融市場のトップパフォーマーになる可能性

 この環境は日本株にとっても大きな追い風となる。下記のように、日本株特有のプラス要素もある。

(1)コロナ感染少なく、経済正常化加速が見込まれること。
(2)日本株は世界でもっとも景気感応度か高く、世界的景気拡大のなかで、グローバル企業の企業業績好転が見込まれること。
(3)菅政権の改革姿勢と財政出動が評価されること、など。

 とくにアベノミクスの後半に経済失速を招いた緊縮財政路線(消費税増税とプライマリー財政赤字削減)が棚上げされ、73兆円補正予算に代表される大規模な財政拡大路線に転換していることは、外国人投資家を引き付けるだろう。

 日経平均3万2,000円から3万5,000円を目指す大きな上昇相場が始まっていると考えるべきだろう。

(了)

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