「尖閣諸島をめぐる日中対立の真相と今後の打開への道」(3)
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国際政治経済学者 浜田 和幸
沖縄政府がまとめた『沖縄の100年』においても、「古賀氏は日清戦争直前にようやく魚釣島を発見した」と記載されている。言い換えれば、古賀辰四郎氏の履歴書は意図的に八重山支店の開設を実際の時期と比べ14年間も早めており、しかも魚釣島の開発の時期に関しては12年間も早めた記述となっており、正に虚偽の内容を含んでいるようだというわけである。
なぜそのようなウソが必要であったのか。そのようなウソを当時の日本政府があえて黙認した理由は何なのか。この点に関し、劉教授は次のように述べている。曰く「ウソで固めた古賀辰四郎氏の履歴書は日本政府が魚釣島を盗み取るための根拠となる裏付け証拠にしようとしたに違いない。いわば海外での植民地や利権の拡大を急いでいた当時の日本政府が古賀氏を表彰することで、自国の海外進出を正当化しようとした試み」というわけだ。
さらに、劉教授が着目したのは、沖縄通信社が1971年8月29日に創刊した『群星』の第一号に伊澤弥喜太氏の長女である伊澤真伎氏のインタビューである。そのインタビューのなかで、伊澤真伎氏は次のように述べている。
曰く、「日清戦争の当時、私の父伊澤弥喜太は軍医でした。戦争後、那覇市に移住し、医師として生計を立てていました。日清戦争が終わりしばらくしてから八重山の周辺で三井物産の漁船が十数隻、事故に遭遇しました。私の父は医師として救助船に乗り込み、この無人島に辿り着いたと言います。当時はこれらの島々が清国のものか日本国のものか不明であったために、父は直ちに九州に戻り、政府と連絡を取りました。政府からは日本領であるとの回答がありました。そこで父は古賀辰四郎氏らと話し合い、開発申請を出すことにしました。父には資金がなかったため、古賀氏が出資し、これらの島々の権利は名義上、古賀辰四郎氏のものになったわけです。しかし、古賀氏はこの島に定住し開発に従事したわけではありません。開発事業は私の父に委託したわけです。いずれにしても、これらの島々が古賀氏によって発見されたということは聞いたことがありません」。
その後、この伊澤真伎氏は1972年1月8日に「尖閣列島についての証言」という、いわば自らの遺書を代理人に毛筆で口述筆記してもらったという。劉教授はこの伊澤真伎氏の遺言を入手し、その内容を「尖閣諸島が日本の領土ではなく、中国の領土であることを証明するうえで画期的な内容である」と豪語している。
曰く、「私、伊澤真伎は尖閣列島の黄尾島の古賀村に生まれた。父は伊澤弥喜太。父の仕事は古賀辰四郎氏の業務主任であり、この島でかつお節の工場を経営したり、アホウドリの羽毛や貝殻を集めたりすることでした。現在は新聞などにより古賀辰四郎氏が初めて尖閣列島を発見した人物とされていますが、これは真っ赤なウソです。絶対にあり得ないことです。なぜなら私の父が1891年に魚釣島、黄尾島に漁に出かけ、アホウドリの羽毛を集めていたことが文書によって記録されているからです。私の父は上陸後の調査を実施し、洞窟内に中国の服を着た骸骨を発見したようです。今思えば父が初めて上陸する以前に中国人がこの島々を訪れていた可能性があると思われます。古賀氏が1895年に政府に提出した開拓申請書にはこれらの島々は1884年に発見されたと記されていますが、これは古賀氏が弁護士に委託し捏造したもので、絶対に事実ではありません。その後の日清戦争により台湾と同時に盗み取り、1896年に正式に日本領に編入させたのです。日中両国は良好な関係を築くべきであり、その際には日本が先に発見し開発していたと無理な主張をするのは間違いです。尖閣諸島は当然、その故郷である中国に返還すべきです」。
こうした内容の伊澤真伎氏の遺言状の信ぴょう性はどこまであるものだろうか。もし、この文章が本物であり、その内容が事実であるとするならば、日本政府が魚釣島を最初に発見し上陸したとする日本人伊澤弥喜太氏の長女が、日本政府の主張を全面的に否定し、中国領であることを証明したことになるかもしれない。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。関連キーワード
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