モバイル産業スパイ事件騒動録~楽天モバイルに引き抜かれた転職者が、ソフトバンクの5G情報を持ち出していた!(前)
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高速通信規格「5G」に関する技術情報を不正に持ち出した疑いがあるとして、ソフトバンクから楽天モバイルに転職した男が1月12日、警視庁に逮捕された。人材の引き抜き、情報の持ち出しをめぐり、ソフトバンク(株)と楽天モバイル(株)が激突する大騒動が勃発した。
「此頃 都ニハヤル物 夜討 強盗 謀綸旨 召人 早馬 虚騒動・・」
(このごろ、都に流行るものは、夜討ち、強盗、帝のニセ文書。緊急招集をかける使いの者の早馬による空騒動・・・)1334(建武元)年、京・鴨川に掲示された「二条河原の落書」である。
これになぞらえれば、「このごろ、都に流行るものは、スマホ、SNS、値下げ、引き抜き、持ち出しの空騒動」となる。引き抜き、持ち出しをめぐり、ソフトバンク(株)と楽天モバイル(株)が激突する大騒動は、「令和版モバイル産業スパイ事件」である。
5Gの技術情報の産業スパイ事件
今回の事件について、各メディアが一斉に報じた内容を以下に要約する。
不正競争防止法違反(営業秘密の領得)で逮捕されたのは、ソフトバンク元社員の合場邦章容疑者(45)。社外から自分のパソコンで会社のサーバーにアクセスし、営業秘密にあたる5Gの技術情報などを不正に取得した疑いである。
合場容疑者にはアクセス権限があり、パスワードを使って私用パソコンから同社のサイバーにアクセス。該当ファィルを自らが管理するメールアドレス宛に送ったという。合場容疑者は2019年12月31日にソフトバンクを退職し、20年1月1日付でライバルの楽天モバイルに転職した。
ソフトバンクは20年2月、社内の調査で情報流出に気づいた。ソフトバンクから相談を受けた警視庁は同年8月、合場容疑者の自宅や転職先の楽天モバイルからパソコンなどを押収してデータの解析を進め、逮捕にこぎつけた。
ソフトバンクは、持ち出されたのは同社の4Gと5Gの基地局設備や基地局同士などを結ぶ固定通信網に関する技術情報で、容疑者が利用する楽天モバイルの業務用パソコン内に保管されていると指摘。営業秘密が楽天モバイルで不正使用された可能性が高いとして、漏出情報の利用停止と廃棄を求める訴訟を検討する。合場容疑者にも損害賠償を求める方針という。
これに対して、楽天モバイルは業務への利用を否定し、持ち出した情報には「5Gに関する技術情報は含まれていない」とし、ソフトバンクの見解を否定した。
モバイル産業スパイ事件のキーワードは5Gと線路主任技術者
モバイル産業スパイ事件の背景にあるのは、5Gをめぐる各社の競争と線路主任技術者の不足だ。5Gとは、最新の移動通信システム。通信速度が現行の4Gの100倍速く、2時間の映画を3秒程度でダウンロードできる。現在の対象エリアは都市部の駅周辺といった特定地域で、携帯大手は基地局を増やすなどの対応を進めている。5G対応の基地局の全国ネットワークを築くことができるかということが、携帯大手の勝負どころである。
5Gを含め携帯電話の基地局の設置や管理を担っているのが、線路主任技術者。国家試験があり、合格率は2割程度と難易度は高い。合場容疑者は、線路主任技術者の国家資格をもつ。5Gをめぐる競争が激化し、通信ネットワークの運用を担う線路主任技術者が足りず、有資格者は引く手あまただ。
合場容疑者が、どのような条件で楽天モバイルに転職したのか。「手土産」代わりに5Gの技術情報を持ち込んだのか。いまのところ、それらの経緯はわかっていないが、だんだんと明らかになるだろう。
(つづく)
【森村 和男】
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