モバイル産業スパイ事件騒動録~楽天モバイルに引き抜かれた転職者が、ソフトバンクの5G情報を持ち出していた!(中)
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高速通信規格「5G」に関する技術情報を不正に持ち出した疑いがあるとして、ソフトバンクから楽天モバイルに転職した男が1月12日、警視庁に逮捕された。人材の引き抜き、情報の持ち出しをめぐり、ソフトバンク(株)と楽天モバイル(株)が激突する大騒動が勃発した。
ソフトバンクの基地局情報はロシアのスパイも手に入れていた
それにしても、ソフトバンクのセキュリティの甘さには驚かざるをえない。報道によると、合場邦章容疑者は、ソフトバンクに辞職を申し出た2019年11月から退職する12月31日までの間、約30回にわたって、同社から約170の情報ファイルを持ち出した疑いがあるという。
通常の企業は、エンジニアが転職する場合、情報漏洩を防止するために、退職を申し出た時点でアクセスを遮断する措置を取る。ところが、ソフトバンクはそうはしていない。ソフトバンクには、IT(情報技術)時代の情報管理ができていなかった。
昨年、映画を地でいくようなロシアのスパイによるソフトバンク機密漏洩事件があった。ロシアの対外情報庁(SVR)で科学技術に関する情報を収集する「ラインX」の一員としてスパイ活動に従事していた在日ロシア通商代表部のアントン・カリニン元代表代理は、ソフトバンクの元社員で統括部長だった荒木豊被告を飲食店で接待し、繰り返し情報を入手していた。
警視庁は、荒木被告が電話基地局設置に関する作業手順書など営業秘密計3件を社内サーバーから不正に取得したとして、不正競争防止法違反罪で20年2月に起訴。荒木被告は同年7月、有罪判決を受けた。
カリニン元代表代理は外交特権でさっさと帰国したが、ロシアのスパイが「機密情報」として欲しがったのは、基地局の技術情報だった。
今回のモバイル産業のスパイ事件とロシアのスパイ事件の欠陥は同じ。ソフトバンクの基地局という機密情報のセキュリティに穴が開いていたということだ。
楽天は後発の焦りから、ライバル社からの引き抜きに血道をあげた
モバイル産業スパイ事件は、楽天(株)の焦りを天下にさらけ出した。
楽天は「第4極」として20年4月に携帯電話事業に参入した。楽天の三木谷浩史会長兼社長は、楽天モバイルの携帯電話事業を「楽天市場」などの電子商取引(EC)や楽天銀行(株)、楽天証券(株)などの金融に続く3つ目の収益の柱に位置付ける。29年3月までに現行の4Gと次世代通信規格5Gのネットワーク整備などに計8,000億円を投じる計画だ。
三木谷氏は、基地局整備について「爆発的なスピードで進める」とぶちあげた。総務省に提出した計画では、26年3月までに約2万7,000局を整備する予定だったが、5年前倒しして21年中に整える方針だ。
(株)NTTドコモやKDDI(株)、ソフトバンクは20年3月に5Gの商用サービスを開始。5Gサービスに欠かせない基地局の整備が本格化した。ドコモは21年6月末までに1万局の整備を予定し、23年3月末に3万2,000局を目指す。ソフトバンクは、25年3月末までと計画していた全国約1万1,000局の整備を23年3月末に終える方針だ。
楽天が5Gの商用サービスを開始したのは20年9月。大手3社より半年遅れた。18年春に総務省から携帯電話事業の認可を受けて以降、基地局の整備が遅れたことで同省から3度の行政指導を受けた。
携帯電話最後発の楽天モバイルは、基地局が整って始めて、大手3社と同じ土俵に上がることができる。そのため基地局建設に全力投球する。しかし、基地局を整備するには、線路主任技術者などエンジニアが絶対的に不足している。
楽天モバイルは、即戦力となる社員の引き抜きになりふりかまっていられない。ドコモやソフトバンク、海外から人材を引き抜くだけでなく、楽天本体のEC(電子商取引)事業の担当社員が携帯事業を兼務するケースも多かった。今回の事件は、「5Gフィーバー」が過熱するなかで噴出した引き抜き合戦の一端を垣間見せた。
(つづく)
【森村 和男】
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