【ラスト50kmの攻防(19)】“板挟み”の武雄市と嬉野市でフル規格推進の県民会議
JR九州は危機感あらわ

武雄市と嬉野市の経済7団体の発起人会
=武雄市武雄町の武雄商工会議所
佐賀県武雄市と嬉野市の経済関連7団体の役員が25日、武雄市の武雄商工会議所に集まり、民間の立場から九州新幹線長崎ルートのフル規格建設を求める「県民会議」(仮称)の設立を申し合わせた。同県内外から会員を募り、3月中旬までをメドに設立総会を開き、正式に旗揚げする。
長崎ルートは武雄温泉―長崎間が2022年秋の開業見通しになる半面、営業中の鹿児島ルートと接続する新鳥栖―武雄温泉間は国交省と佐賀県が整備方式をめぐって“幅広く”協議中。着工の前提になる環境アセスメント実施のメドも立っていない。
武雄温泉―長崎間の開業後、武雄温泉のホームで在来特急と新幹線を乗り継ぐリレー方式を採用。現在、長崎線肥前山口―武雄温泉間の佐世保線複線化工事も進む。リレー方式が長引けば、短距離区間で新幹線を営業するJR九州の赤字は必至だ。同社の青柳俊彦社長は「新鳥栖―武雄温泉間の整備方式がどうなるか不安なまま、新幹線を開業するのは無責任。開業すべきでない」と危機感をあらわにする。
一方で、佐賀県の山口祥義知事は「フリーゲージトレイン(FGT)も選択肢に残っている」と述べ、国交省やJR九州などとの確執は深まる。武雄温泉駅と嬉野温泉駅が開業する武雄市と嬉野市は文字通り“板挟み状態”だ。
連携模索する「県民会議」

新幹線開業後、在来特急『かもめ』はここを走る
(車窓から撮影)
打開策を探る両市の商工、観光、旅館関連の7団体が、全県にフル規格推進を呼びかける民間組織「県民会議」の結成を計画。発起人会を開き、会長に小原健史・嬉野市商工会長、副会長に溝上邦治・武雄商工会議所会頭と山口康雄・武雄市商工会長が就いた。事務局は嬉野市商工会に置く。年会費1,000円を払えば、誰もが原則入会できる。
当面は、新幹線開業後に並行在来線になる長崎線肥前山口―諫早間への観光列車投入、3セク鉄道「松浦鉄道」のJR武雄温泉駅乗り入れ、JR筑肥線高速化といった運動を関係地域の民間団体に呼びかけて組織を拡大。併せて、2つの新幹線駅開業の波及効果をPRする。
同県民会議は、佐賀県の地方議員でつくる「フル規格促進議員の会」と長崎県の経済人も入った「肥前の殖産を実現する会」とも連携しながら活動するという。
長崎ルートなど整備新幹線3線は、北陸・金沢―敦賀間の開業延期と工事費急増の“北陸ショック”が直撃。敦賀―新大阪間や新鳥栖―武雄温泉間など新規着工区間の新たな財源スキームは見通せていない。
【南里 秀之】
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