大和力を、世界へ。コロナ禍のなかでアートにできること(3)
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神獣に代表される日本古来の文化をモチーフに、現代的な瑞々しい感性で作品を送り出し続ける、アーティストの小松美羽さん。「見えない世界、神々と人をつなぐことが私の役割。役割をまっとうするために、作品を見てもらいたい。牙がある画家になりたい」と話す小松さん。コロナ禍のただ中にある世界で、何を感じているのか。
日本人とアートの間に
――絵を描くときには、「自我を入れないように意識」している、と。
小松 神獣さんは私が創作したものではなくて、たとえばお寺や神社にいけば狛犬や龍がいたりする。イタリアにいけば腕の生えた獅子がそのへんにいて、フランスにはガーゴイル(架空の動物)さんがいたり、イギリスだったらグリフォン(鷲と獅子の合成獣)だったり。神獣は世界各地にいろいろなかたちで存在していて、そういった神獣さんたちは過去のものではなく人間みたいに進化して現在の思想のなかで生きています。
瞑想でそういった神獣たちとつながるには自我をもちこまないのが大切ですし、それは無になるっていうことではなくて、多くのイメージを膨らませるということ。瞑想して1点に集中して、多面的に広がっていく多くのものを見て、神獣さんのかたちをつかんで、いまどんな気持ちなのかをつくり上げていくことが大事。そこに自我はいらないんですね。目の前にかわいい犬がいて、犬をしっかり描きたいっていうときに、犬に対しての自我って必要ないと思うんです。
――ドイツは今回のコロナ禍でも文化的なものの、重要性を認めてすぐに補助金を出しました。ヨーロッパはそういう理解が進んでいる。日本との違いを感じることはありますか。
小松 すごく不思議に思っているのは、日本って美術大学や美術系専門学校などがすごく多いんです。一般大学だけでなく専門の単科大学もあって、毎年かなりの数の美術をきちんと学んだ方々を輩出しています。これって純粋にすごいことで、日本人って本当にモノをつくったりするのが好きな人たちなんだって。
でも一方で、日本人ってふらっとギャラリーに入って絵を見てみるとか、気に入った絵を買ってみるっていうことがすごく苦手ですよね。アートとの距離が遠いっていうか。 ギャラリーで展覧会をすると「入館料はかかるんですか?」って質問されたりする。「入るのに緊張します」とか(笑)。そうかと思えば、美術館とかで有名な方の作品展があると大行列になったり。日本人にはいろいろな面があるのはたしかで、1つのものに向かっていくポテンシャルは高いのでちょっと後押しすればアート好きな国民性が伸びていくと思います。
――アーティストの方たちを支援するような仕組みや若いアーティストを応援しようというサポート状況はどうでしょうか。
小松 美術学校で技術は学べますが、卒業してプロとしてどう生きるのかっていうのは教えられないものなので、手探りで頑張っているアーティストがたくさんいます。「支援」というよりも、作品をみていただいて本当のファンになってもらって一緒に歩んでいくのが理想だと思いますね。いろいろなパターンがあると思うので、そこは自分でやっていくしかない。
ニューヨークを歩いていると、ビルに最新のアートが普通に飾られていたりするんです。大御所作家だけではなくて、若い作家さんの作品もどんどん使われている。そういった「見える場所に積極的にアートを織り込んでいく」というエネルギーはすごく感じますね。公的な場所に置いてもらえるので、作品の持ち主だけではなくみんなで楽しむことができる。中国ではWeChatで作品をシェアして面白い作家さんを広める動きがあるそうです。ドネーションやアートの発信が普通に行われていて、街中で普通にアートに接することができるのが人の認識を変えているのかも。
日本もパブリックアートが増えてきています。こういった時期だからこそ創作活動を止めることなくパブリックアートに力を入れているところをみると、作家としての刺激を受けます。
――日本では、そもそも「気に入った絵を買う」こと自体のハードルが高い。文化的成熟度の違いでしょうか。
小松 私は教育に原因があるんじゃないかなって思うんです。日本の美術教育を批判しているわけではなくて、子どもたちとアートの向き合い方を考えると、絵を描くにしてももっと自由であっていいと。「こういう技術で、こういうふうに描きなさい」って教えるのは高校や美大で教えればいいことで、ある程度の年齢になったら自分で選択して特化していくことで間に合います。一方で、たとえば真っ白な紙をもらって1時間悩んだ末に紙の真ん中に1つの点を打った、っていう体験が子どもたちには大切で、本来ならそういったプロセスみたいなものを評価してあげたい。
実は私自身も、小学校や中学校の美術の試験では決して評価された側ではありませんでした。絵が好きだったから乗り越えられましたが、たとえば美術の授業で美術館に連れて行かれると、名作を見ても何も感じないことに感性の無さを感じたり、強制的に美術に向き合わされること自体が苦痛だったりするわけです。
でも「まったく絵を見たくない」っていうその気持ちもそれは正解なんです。アートは強制ではなくて、友達が絵を描いている姿を共有するだけでいいし、それがのちのちの感受性を育むと信じています。イタリアでは、美術館で見るような凄い彫刻が普通に街中に置いてあったりします。普通に美術に触れ合える空間というのはすごく大切で、入館料を払ったとしても、見たくなければそのまま帰ってもいいんだと思います。
(つづく)
<PROFILE>
小松 美羽(こまつ・みわ)
現代アーティスト。1984年長野県坂城町生まれ。女子美術大学短期大学部卒業。20歳のときに制作した銅版画「四十九日」が好評を博してプロ活動へ。2014年、出雲大社へ絵画「新・風土記」を奉納。15年、有田焼の狛犬「天地の守護獣」が大英博物館日本館に永久展示される。16年から「The Origin of Life」が4 World Trade Center(ニューヨーク)に常設展示。19年、VR作品「INORI~祈祷」が第76回ヴェネチア国際映画祭VR部門にノミネート。20年、日本テレビ系「24時間テレビ」の〈チャリTシャツ〉をデザイン。著書に『世界のなかで自分の役割を見つけること』(ダイヤモンド社刊)など。
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