世界平和に向けて(19)ベトナム人技能実習生が建設作業中の転落事故で帰らぬ人に
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ベトナムから来日して建設会社で働いていた技能実習生が2020年5月、集合住宅の工事に従事していたときに転落事故で亡くなった。その事故の要因について、関係者に取材した。
事故発生の原因
ベトナム人の技能実習生は2020年5月、福岡県北九州市小倉の集合住宅の建設工事で建物の周囲に張ったネットを撤去し足場と囲いを解体していたとき、足を踏み外して2階の高さ(約3m)から転落した。工事スタッフが足元が滑りやすい現場や高所作業時に必ず身に付ける安全帯を腰に装着していたが、指示されていたにもかかわらず、転落防止の命綱である安全帯のフックを囲いのパイプにかけずに作業をしていたため、転落する人身事故となった。
技能実習生は現地の送り出し機関で、6カ月間の研修を受けて来日し、企業に就職する。母国の研修機関では、日本で働くために必要な知識や技能を教わり、受け入れ企業では、日本の優れた技術や知識を学び習得する。技能実習生のビザで日本に滞在する約5年間で、その職種に必要な知識や技能、日本語を身に付けながら働いて、帰国後、日本での経験を活かして、母国の発展に役立つ人材となって活躍する。
この技能実習生も高い志と覚悟をもって来日し、母国の発展に役立つ人材となって帰国する思いでいたはずであり、誠に無念だ。本件は20年5月に発生し、同11月12日に労働安全衛生法第31条・同規則第563条の違反により、福岡地検に書類送検となった。
元請業者社長の強い責任感
本工事の元請業者社長に連絡をとると開口一番、「回りくどい話はいいから、何が聞きたいのかを率直にいってください」と強い口調で話を始めた。事件発生からすでに9カ月が経過しており、話を蒸し返すように感じられて、強い口調になる気持ちも理解できる。徐々に落ち着いて会話が成立するようになったところで、上述の事故の実態を答えてもらった。時々、感情が高ぶって「悪いことでも何でも、書きたければ書いたらいいのです」と、また強い口調になることもあった。
このベトナム人技能実習生は、取材に応じた社長が経営する元請会社が雇用していたのではなく、数社が間に入り、下請会社が技能実習生を直接雇用し、指示をして作業させていた。
元請会社の社長は、「この事故で帰らぬ人となった技能実習生への賠償を行いました。申し訳ない思いで、責任を痛感しています。これまで以上に『KYミーティング(危険予知ミーティング)』が重要であると考えて、全員で行ない、数社の下請会社を使う以上、元請である当社が管理を怠ってはならないと常に考えて実行しています。日々の現場で働く作業スタッフは危機管理の大切さを十分にわかっていても、外国人労働者に対しては、下請だけに任せきりにせず1つ1つに注意を払い、もっと外国人に伝わる管理をしなければいけません。このような取り返しのつかない事故が繰り返されることのないよう、『自分の身は自分で守る』ことの重要さを指導しています」と回答した。
この社長が最後に答えた言葉には、KYミーティングや安全衛生教育などをどれだけ行っても、ヒューマンエラーが原因で発生する事故が多く、このたびの事故の反省を基に、「自分の身は自分で守る」ことの重要性をスタッフ全員に徹底して伝えるという考えが込められていた。
帰らぬ人となった技能実習生に、心よりご冥福をお祈りする。
【岡本 弘一】
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