2024年12月27日( 金 )

【コロナで明暗企業(2)】スシローグローバルホールディングスの快進撃~牛丼の吉野家から持ち帰りすしの京樽を買収する「プロ経営者」水留浩一氏(前)

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 「捨てる神あれば拾う神あり」。このことわざの意味は、一方で見捨てる人がいるかと思うと、他方で救ってくる人がいる。世間は広く、世の中はさまざまだから、くよくよすることはない(『広辞苑』)。
 新型コロナウイルスの影響を強烈に受けた外食業界は、明暗がわかれた。回転ずしの(株)スシローグローバルホールディングスが、牛丼の(株)吉野家ホールディングスから持ち帰りすしの(株)京樽を買収する。「捨てる神あれば、拾う神あり」の図だ。

回転ずしのスシローが、すし店の京樽を買収

 回転ずし大手の(株)スシローグローバルホールディングス(以下、スシローGHD)は2月26日、牛丼チェーン大手の(株)吉野家ホールディングス(以下、吉野家HD)から持ち帰り専門のすし店などを展開する(株)京樽(東京都中央区)を買収すると発表した。4月1日付で全株式を取得する。買収額は非公表。

 京樽は持ち帰りすし「京樽」や回転ずし「海鮮三崎港」、寿司専門店「すし三崎丸」などを展開する。国内では関東の都心部を中心に290店、中国には2店舗がある。

 スシローGHDは、テイクアウトに強い京樽の買収によって新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに高まっているテイクアウトのニーズに対応していくことでシェア拡大を狙っていくという。スシローGHDは全国におよそ570店舗を展開しているが、9割以上の店舗は地方や郊外に出店しているため、京樽がシェアをもつ首都圏の都心部への出店を強化する。

 吉野家HDは、なぜ、京樽を売却するのか。新型コロナ禍が外食業界を直撃したからだ。

吉野家HDの赤字の原因は、都心に展開する京樽の不振

 吉野家HDの2021年2月期決算では、売上高は前期比20.3%減の1,723億円、営業損益は87億円の赤字(前期は39億円の黒字)、最終損益は90億円の赤字(同7億円の黒字)を見込む。赤字幅は過去最大だ。苦境に陥った理由の1つが京樽の苦戦だ。

 20年3~11月期決算によると、京樽の売上高は前年同期比35%減の136億円、営業損益は20億円の赤字(前年同期は2億円の黒字)だ。牛丼の吉野家は、減収減益とはいえ、営業損益は26億円の黒字。京樽や讃岐うどんチェーン「(株)はなまる」の赤字を補えなかった。牛丼の吉野家に依存する経営体質がコロナの直撃を受け露呈した。

 京樽は1932年に京都市で創業した割烹料理店。38年、東京・日本橋人形町に料亭「京樽」を出店して東京に進出。戦後の52年、テイクアウト専門店「京樽」を開店。酢飯を薄焼き卵で包んだ看板商品「茶きん鮨」が評判となり。百貨店に店舗を広げて、84年に東証一部に上場した。

京樽はバブル期の不動産投資や財テクの失敗が重なり、97年に負債1,013億円を抱え東京地裁に会社更生法の適用を申請。99年から(株)吉野家ディー・アンド・シー(現・吉野家HD)が資本参加して再建に協力し、2011年に吉野家HDの完全子会社にした。

京樽は都心の駅前や商業施設の店舗が大半を占め、新型コロナウイルスの感染拡大で在宅勤務や外出自粛により客足が大幅に落ち込んだ。ここ数年は、回転すし大手に押され、業績の低迷が続いていた。

郊外店が主力のスシローHDの業績は絶好調

 回転ずしの「スシロー」は20年2月までの既存店売上高が28カ月連続で前年同月超えを記録。土日ともなれば店内は家族客であふれ、1~2時間待ちは当たり前という状況が続いていた。しかし、新型コロナで客足は遠のき、4月の既存店売上高は前年同期比で44.4%減と大幅ダウン。5月も18.6%減だ。この落ち込みは外食チェーンに共通する。スシローは客足の戻りが早かった。6月以降、既存店売上高は数%減で推移した。

 スシローGHDの20年10~12月期の連結決算(国際会計基準)は、売上高にあたる売上収益は前年同期比6.8%増の595億円、営業利益は41.8%増の66億円、純利益は35.2%増の40億円と増収増益だ。国内で20年1月以降にスシローを新たに出店した効果で全店売上は前年同期を上回り、売上高を押し上げた。

 スシローは国内店の9割以上は地方郊外のロードサイドに立地し、ファミリー客層を取り込んだ。コロナが買い物意識を「都心部より生活圏」に変えたことが、スシローの客足の戻りが早かった理由だ。

 持ち帰りサービスや宅配対応店数の拡大も奏功した。持ち帰り用の受け取りロッカーの導入店舗数は、10~12月期の3カ月間で20年9月期時点に比べて2.5倍の85店に拡大。宅配対応店舗も1.5倍の約300店に増やしたことで、客単価を押し上げた。

 緊急事態宣言が再び出されたにもかかわらず、21年2月の全店売上は前年同月比5.9%増、客単価は15.9%増と2ケタの伸びだ。スシローGHDはテイクアウトを強化するため、京樽を買収する。21年9月期の通期予想は、売上収益は前期比22.3%増の2,506億円、営業利益は43.4%増の173億円、純利益は62.6%増の105億円と最高を更新する見込み。

 回転ずしのスシローGHD、牛丼の吉野家HD。外食業界の雄は、コロナ禍を潜り抜けるなかで、明暗を分けたのである。スシローGHDはなぜ、外食業界で1人勝ちするようになったのか。

(つづく)

【森村 和男】

(中)

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