【コロナで明暗企業(3)】日本たばこ産業(JT)が日本から脱走(1)
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「庇を貸して母屋を取られる」。自分の所有物の一部を貸したがために、ついにその全部を奪われるという意味(広辞苑)。日本たばこ産業(JT)は本社機能をスイスに移転する。たばこ事業は、国内はJT本社、海外はジュネーブに拠点を置くJTイーターナショナル(JTI)が担ってきたが、来年1月以降、国内事業もJTIの傘下に入る。JTは買収した海外のたばこ会社・JTIにのみ込まれる。「庇を貸して母屋を取られる」格好だ。
スイスのグローバル本社・JTIの傘下に
日本たばこ産業(JT)は2月9日、落ち込みが続く国内たばこ事業で大規模なリストラと組織再編を実施すると発表した。国内たばこ事業の本社機能をスイス・ジュネーブに移したうえで、海外たばこ事業と統合することが柱だ。
主力のたばこ事業については、国内事業はJT本社が担当し、海外事業はジュネーブに拠点を置くグループ会社のJTインターナショナル(JTI)が担っている。2022年1月に国内事業をJT本体から切り離し、JTIの傘下に置く。国内の販売計画や商品開発を含む経営戦略は、JTIが主導するかたちになる。
同時に、大規模なリストラを実施する。国内に4カ所ある生産拠点のうち、九州工場(福岡県筑紫野市)と、子会社の日本フィルター工業(株)(東京・墨田)の田川工場(福岡県田川市)を22年3月末で閉鎖する。
九州工場は1986年に操業を始め、現在は主力商品『セブンスター』などを製造し、20年度の生産本数は約8億本。田川工場は64年から、たばこのフィルターを生産している。
国内の営業拠点は160拠点を約7割減らし、47拠点まで縮小する。要員も減らす。国内のたばこ事業部門やコーポレート部門の46歳以上の社員を対象に、1,000人規模の希望退職を募る。パートタイム従業員も約1,600人に退職勧奨を行う。派遣社員の雇い止めを含めた一連のリストラで、22年3月までをめどに3,000人規模の人員を減らす。これは国内雇用者全体の2割に上る。
子会社で冷凍食品製造のテーブルマーク(株)(東京・築地、旧・加ト吉)も香川県内の3工場を10月末に閉鎖する。
JTは民営化した85年に34工場で約3万人の社員を抱えていたが、たばこ市場の縮小に合わせて段階的に削減し、従業員は7,900人に減っていた。今回のリストラで、国内の生産拠点は北関東工場(宇都宮市)など3カ所になる。
国内紙巻きたばこ、民営化後に5分の1に縮小
大リストラの背景にあるのは、国内たばこ事業の落ち込みだ。20年12月期の連結決算(国際会計基準)は、売上高にあたる売上収益が前期比3.8%減の2兆926億円、営業利益が同6.6%減の4,691億円。純利益は本社ビルの売却益413億円を得たにもかかわらず、同10.9%減の3,105億円と5期連続の減益。
JTの利益の源泉だった国内紙巻きたばこの販売本数は687億本となり、85年の3,032億本に比べて5分の1に激減。国内たばこ事業の売上収益は5,632億円と同9.0%減となった。減少分の300億円程度が新型コロナによる影響と説明しており、国境を越えた移動が制限されるなか、免税店などでの売上が減少した。
これに対して、海外の販売本数は4,357億本に達し、すでに国内販売を上回る。海外たばこ事業の売上収益は1兆3,308億円で、全社の63.5%を占める。
世界的に加熱式たばこの需要が急拡大している流れに乗り遅れた。国内の加熱式市場では、米フィリップ・モリスの『アイコス』が7割を占め、JT製品は1割程度にすぎない。事業戦略を立てる司令塔が国内と海外にわかれていたことによるもので、今回、国内たばこ事業を海外たばこ事業に統合させる要因となった。今後は、スイスのJTI主導で経営判断が進むことになる。
21年12月期の連結決算は、売上収益が前期比0.6%減の2兆800億円、営業利益が同22.6%減の3,630億円、純利益も同22.6%減の2,400億円を見込む。紙巻きたばこ離れで減益に歯止めがかからない。
国内のたばこ事業を縮小し、海外のたばこ事業に軸足を移すJTの足跡をたどってみよう。
(つづく)
【森村 和男】
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