コロナ騒動を機に「日本の文化度」を考察(2)
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美術評論家 岩佐 倫太郎 氏
ドイツでは、グリュッタース文化相が「文化は平穏なときにだけ享受される贅沢品ではありません。皆さんを見捨てるようなことは決してしません」(2020年5月)と具体的な支援・補償を約束した。一方、日本では「日本の文化芸術の灯は消してはなりません」(宮田文化庁長官)という発言はあったものの、具体的な取り組みにはほとんど言及していない。「日本の文化度」について、美術評論家の岩佐倫太郎氏に話を聞いた。
国の背景を踏まえて文化芸術を正しく理解
――ここから文化芸術の話題に入っていきたいと思います。最近、欧米と比較して「日本の文化度」は低いといわれています。
岩佐倫太郎氏(以下、岩佐) たしかに、ドイツのモニカ・グリュッタース文化相が「文化は平穏なときにだけ享受される贅沢品ではありません。皆さんを見捨てるようなことは決していたしません」と話し、具体的に大きな支援・補償を約束したことは評価に値することと思います。文化芸術を愛する身としては、頼もしくもあります。同時期に、宮田亮平文化庁長官も「日本の文化芸術の灯を消してはなりません」と発言しています。しかし、そのとき具体的な支援・補償の内容はほとんどありませんでした。
そこで、日本は芸術家に対する支援は遅いし、少ないので、文化レベルが低いといわれていることはたしかです。ただし、これだけをもって、一部のテレビのワイドショーや新聞・雑誌などが「日本の文化度は低い」と卑下して、また叩いて、正義の高みに立とうするのには違和感があります。もっと、それぞれの国の背景を踏まえたうえで、文化芸術を理解していく必要があると思います。逆にそこがわかれば、なぜこんな時期に不要不急と思われる文化芸術が必要なのかが理解できると思うからです。そのあたりも今回お伝えしたいと思います。
――ぜひ、詳しくお聞かせください。
岩佐 今回のドイツの文化芸術に対する大きな支援・補償の背景には、2つの点があると考えています。1つ目は、ナチの時代の反省です。ドイツではナチが全体主義国家をつくり、忌まわしい戦争に突き進んでしまった過去があります。ナチの時代には、文化芸術が国によって統制されてしまいました。たとえば、抽象絵画などは「退廃芸術」の烙印を押され弾圧されました。逆に、文化芸術が戦争推進のプロパガンダに利用されてしまった苦い経験もあります。文化芸術が抑圧されるとき、民主主義は棄損され、コミュニティーは解体されていきます。
ドイツでは民主主義を守り、ナチの時代を復活させないためには、文化芸術を底辺に置いて、人々の自由な発言や表現が可能な社会でなくてはいけないことを肌感覚で多くの人が知っています。今回のグリュッタース文化相の言葉は、自分たちの国から「再び民主主義を失くしてはいけない」という危機感から出たものと考えることができます。
2つ目は、ドイツおいて文化産業は、機械産業を抜いて自動車産業につぐ大きな産業になっていることです。つまり、基幹産業で金額も大きく、従事する人も多いので、国が率先して手厚く保護するのは当然のことだったのです。このような背景を知ると、一方的に礼賛したり、非難したりという単純な図式的な思考から自由になることができます。
(つづく)
【文・構成:金木 亮憲】
<プロフィール>
岩佐倫太郎氏(いわさ・りんたろう)
美術評論家。大阪府出身。京都大学文学部(フランス文学専攻)卒。大手広告代理店で美術館・博物館・博覧会などの企画とプロデューサーを歴任。ジャパンエキスポ大賞優秀賞など受賞歴多数。ヨットマンとして『KAZI』(舵社)などの雑誌に寄稿・執筆、作詞家として加山雄三氏に「地球をセーリング」を提供。大学やカルチャー・センターで年間50回を超える美術をテーマとした講演をこなす。近著に『東京の名画散歩~印象派と琳派がわかれば絵画が分かる』(舵社)。美術と建築のメルマガ「岩佐倫太郎ニューズレター」は全国に多くのファンをもつ。関連記事
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