2024年12月23日( 月 )

米中対立と日本重視は長期円安に帰結(前)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2021年3月22日付の記事を紹介。

米国の戦略、中国経済の弱体化がターゲット

 武者リサーチは 2009 年の設立以来、日本がデフレに陥った最大の原因は、米国の日本叩きによってもたらされた過度の円高であると主張してきた。超円高によって競争力が破壊され、ドルベースで超割高になった円建て賃金の大幅な引き下げが起こった。

 また、日本の産業集積の海外移転が急進展した。しかし、米中が対立するなかで、この円高・デフレの悪循環は決定的に変化すると考えられる。今回は結論を述べるにとどめ、詳細な検証と分析は今後提供していきたい。

 米中外交トップによるアラスカ会談で、米中の対立が鮮明になった。米国は中国の対外膨張、人権抑圧を絶対容認しないと通告したが、今後レッドラインを引くだろう。昨年、ポンペオ前国務長官が 1972 年以来続いてきた米国による対中融和政策を根本から転換するというスピーチ()を行ったが、バイデン政権はそれを一段と推し進めた。

 コロナ制圧後の米国の最優先課題は対中問題である。対中問題は外交のみならず、米国の内政問題になっていくと考えらえる。国内の分断を解消するためには、強い外敵の存在が便利であり、中国への敵対心を煽る国内世論がさらに強まるだろう。米・日・豪・印 4 カ国による対中連携(クアッド)の構築、英仏艦隊のアジア派遣、中国包囲のミサイル網構築、米国軍備の近代化など、軍事的包囲網が敷かれるとみられる。

 とはいえ、20世紀型の全面戦争が選択肢になり得ない以上、軍事力は中国抑制・制圧の手段にはならない。中国の台湾進攻などの冒険主義を抑制するのみである。中国による米国からの覇権奪取を回避する唯一の道は、中国経済の弱体化しかない。軍事的圧力と同盟強化によって中国の軍事的冒険を抑えつつ、経済的な弱体を狙うという長期戦略である。

日本最重視は当然

 米国は日本を最優先する方針を明確化した。菅首相はバイデン大統領が対面で会う初めての海外首脳となる見通しであること、米ブリンケン国務長官とオースティン国防長官が初外遊で来日し、日米「2プラス2」会談を行ったことなどは、それを示している。

 米中対立では、第1に地理的に日本は米中両国にとって非常に重要となり、日本が米中のどちらに付くかで、米中の覇権争いの帰趨(きすう)が決まる。もちろん、日本に対中連携という選択肢はないが、米国は日本を大切に扱わざるを得ない。第2に、経済面からも日本の役割が重要となる。アジアにおける日本のプレゼンスの引き上げが必須になってくるだろう。

 突如浮上した米国の経済リスクとして、現代の石油というべき半導体・ハイテクハードウェアの生産を中・韓・台に全面依存しているという現実がある。半導体供給はこの3カ国に 6 割を依存、スマホに至っては 100%依存している。

 なぜ、このようなことになったのか。日本叩きとそれにともなう超円高となった結果、日本に集積していたハイテククラスターが3カ国にシフトしたためである。中・韓・台は米中対立の時代では、潜在的な係争地であり、ひとたび騒動が起きれば、3カ国からのハイテク供給が遮断されるという危機を迎える。

 米国の日本叩きと超円高が、アジアの分業構造を米国にとって非常に危険なものにした。米国はそれを修正するはずである。安全なハイテクサプライチェーンを構築するためには、半導体などのハイテク生産を米国に誘導することと、東アジアでの安全地帯である日本へのハイテククラスターの回帰を促すことしかない。

※:ポンペオ前国務長官は昨年7月23日、ニクソン元大統領の出身地であるカリフォルニア州ヨーバリンダのリチャード・ニクソン大統領図書館・博物館で演説。「習氏は破綻した全体主義のイデオロギーの信奉者で、共産主義に基づく覇権への野望をもっている」と決めつけ、歴代政権の中国関与政策(経済的発展を支援すれば中国の民主化を促せるとするもの)は失敗したと断じた。ニクソン大統領の歴史的訪中(1972年)によって始まった50年間の対中政策が終焉したことをニクソンゆかりの地で宣言したのである。
 また、中国共産党の行動転換を促すため、「自由主義諸国が行動するときだ。今行動しなければ、中国共産党は我々の自由を侵食し、ルールに基づく秩序を転覆させる。自由社会が共産主義の中国を変えなければ、中国が我々を変えるだろう。民主主義諸国の新たな同盟を構築するときだ」と語った。 ^

(つづく)

(後)

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