【コロナで明暗企業(4)】ワタベウェディング~海外挙式が蒸発、胃腸薬「キャベジンコーワ」の興和へ身売り(3)
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海外ウェディングで一世を風靡したワタベウェディング(株)が自力再建を断念した。新型コロナウイルスで不要不急の渡航が禁止され、海外ウェディングが壊滅的な打撃を受けた。多くのカップルが予定通り挙式できず、海外挙式は催行できなくなった。胃腸薬「キャベジンコーワ」で知られる興和(株)に身売りすることが決まった。
3代目はリゾート婚依存からの脱却に踏み出す
多くのカリスマ経営者がそうであるように、渡部隆夫氏から息子の渡部秀敏氏への権限譲渡はうまくいかなかった。
秀敏氏は1966年10月生まれ。駒沢大学卒業後、父・隆夫氏が師と仰ぐ、稲盛和夫氏に憧れ、稲盛氏が設立した第二電電(株)(現・KDDI)に勤務。92年ワタベウェディングに入社。海外事業部に配属となり、ハワイ・グアム・サイパン・オーストラリア・USA・カナダなど現地法人の社長を歴任。2008年6月、42歳で社長に就任した。
国内の婚礼市場は団塊ジュニア世代の婚礼適齢期がピークを過ぎた2000年以降、少子化や晩婚化などの影響で縮小傾向が続く。今やカップルの3分の1は挙式も披露宴もしない時代だ。「なし婚時代」をウェディング業界はどう生き残るか。
社長就任当時から「(リゾート婚を前面に出し海外挙式事業に注力する)父と同じやり方では通用しない」と周囲に語っていた秀敏氏は、異業種に進出する。
社長就任直後の08年10月、メルパルクを買収した。以前は郵便貯金会館という名称で(財)郵便貯金振興会が運営する福利厚生増進を目的とする宿だったが、郵政民営化にともない、名称をメルパルクに変更。土地と施設は日本郵政が引き継ぎ所有するが、ワタベが運営権を取得。宴会場やホテルなど11施設を引き継いだ。婚礼件数が減少するなか、宿泊や宴会で収益を穴埋めするためだ。
父親の隆夫氏は10年に会長を退任、相談役に退いた。秀敏氏は、隆夫氏を支えてきた役員体制を刷新した。秀敏氏が経営を継いでから、経営が悪化し、14年3月期35億円、15年3月期18億円の最終赤字を出した。
14年10月秀敏氏は会長に退き、全日空のホテル部門、全日空エンタプライズ(株)(現・IHG・ANA・ホテルズグループジャパン(株))出身の花房伸晃氏が社長に就任。目黒雅叙園は15年、ホテル日航東京の総支配人をしていた本中野真氏を代表に迎えた。 17年には施設名を「ホテル雅叙園東京」に変更した。
秀敏氏は、全日空と日航からホテル経営に通じた人物をヘッドハンティング。婚礼につぐ経営の柱にホテルを据えて再建を図ることにした。
カタログ通販の千趣会の持ち分法摘用会社になる
秀敏氏は大胆な戦略転換をはかる。ワタベは15年7月、カタログ通販の千趣会と資本提携した。千趣会はTOB(株式公開買い付け)を実施。買い付け価格は1株700円で、取得額は23億円。千趣会が25.99%、子会社の(株)ディアーズ・ブレインが7.99%を保有。合わせて33.98%を保有する筆頭株主となり、ワタベを持ち分法適用に組み入れた。千趣会によるワタベの事実上の買収である。
少子化などで式を挙げる組数が減少するなか、ブライダル業界は新規需要の開拓を迫られる。ワタベは11年にシンガポールに現地のカップル向けの婚礼式場を立ち上げるなど、新たな顧客の開拓を急ぎ、千趣会を海外事業のパートナーとした。
千趣会傘下のディアーズと香港に共同出資会社を設立。新会社は、ワタベがもつ中国・上海とベトナムの婚礼衣装を生産する工場を運営。ディアーズが手がける婚礼関係のコンサルタント事業の顧客基盤を受注に生かし、結婚式場などからの衣装のOEM(相手先ブランドによる生産)を倍増させることを意図した。
一方、千趣会は、子会社でハウスウエディング事業を手がけており、全国に23のゲストハウスを運営している。リゾート挙式に強いワタベと組むことで、多様化する挙式ニーズに対応するのが狙いだ。そのため、持ち分法摘用会社に組み入れた。
ワタベは「虎穴に入らずんば虎子を得ず」(危険を冒さなければ、大きな成功を得られないという意味)のつもりだったかもしれないが、資本の論理はそんな甘くない。千趣会が支配株主で、ワタベは、その傘下の企業だ。すぐに、両者の思惑の違いが表面化する。
(つづく)
【森村 和男】
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