【コロナで明暗企業(5)】藤田観光~仰天!!ホテルの「新御三家」椿山荘も売却の対象だった(中)
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新型コロナウイルスの影響で、ホテル業界はかつてないほどの大打撃を受けた。インバウンド(訪日外国人)はゼロ。宿泊だけでなく、レストラン、宴会、婚礼などすべての需要が蒸発し、「生き残り」をかけて資産の売却を始めた。箱根観光のシンボル「箱根小涌園」を経営する藤田観光(株)は、始祖・藤田家から受け継いだ結婚式場「太閤園(大阪市)」を売却した。ホテルの「新御三家」と謳われた「ホテル椿山荘東京(東京・文京)」も売却候補だった。名門・藤田観光の歴史をたどる。
明治の元勲、山県有朋から譲り受けた椿山荘
明治の元勲・山県有朋は西郷隆盛との西南戦争に勝利した功により年金を与えられ、それを元手に1878年、南北朝時代から椿が自生する景勝の地である「つばきやま」を購入した。そこに自然を生かした庭園と本邸を建築し、「つばきやま」の名にちなみ「椿山荘」と名づけた。
1918年、庭園をありのままに保存したいという山県の意志を受け、藤田家の2代目当主・藤田平太郎氏が譲り受け、三重塔をはじめ文化財の数々を配置した庭園をつくりあげた。しかし、45年の戦火によりほとんどが焼失した。
戦後、復興に着手したのは、藤田家から椿山荘を譲り受けた小川栄一氏であった。小川氏は、格式の高い本館を建築。戦前の姿を取り戻した椿山荘を、結婚式場や宴会場を設けた庭園レストランとして本格的に営業を開始した。52年のことである。
80年代、日本の老舗ホテルが地位を確立するなかで、外資系の進出も始まり、シティホテルの競争が激化した。藤田観光は、既存のホテル以上の超高級ホテルをつくるため、日本進出を計画していたカナダのフォーシーズンズ・ホテル&リゾートと提携。92年、世界のどのホテルと比較しても類をみないほどの美しいホテル「フォーシーズンズホテル椿山荘東京」が誕生した。
日本のホテル業界では、「帝国ホテル東京(日比谷)」、「ホテルオークラ(現・The Okura Tokyo)(虎ノ門)」、「ホテルニューオータニ(紀尾井町)」の3ホテルが「御三家」と称され、高級ホテルの代名詞であった。
90年代になると、フォーシーズンズホテル椿山荘東京(現・ホテル椿山荘東京)(目白)、パークハイアット東京(西新宿)、ウエスティンホテル東京(恵比寿)が「新御三家」と呼ばれた。
その「新御三家」の椿山荘も売却の選択肢だったというので、仰天したのである。
藤田観光と筆頭株主のDOWAホールディングスとルーツは同じ
藤田観光と、その筆頭株主である非鉄大手DOWAホールディングス(株)(東証一部上場)は、ともに藤田財閥の創立者、藤田伝三郎氏にその歴史のはじまりがある。
藤田財閥の母体となる藤田組の中核となったのが、秋田県の小坂鉱山。1884年に明治政府から払い下げを受け、藤田鉱業(株)として、鉛・銅の生産で日本有数の鉱山に成長した。これが後の同和鉱業(株)で、2006年に持株会社に移行したのがDOWAホールディングスだ。
一方、1955年11月、藤田鉱業の観光部門が独立し、藤田家が所有する広大な敷地・建物を運用する観光事業としてスタートしたのが藤田観光である。
初代社長は小川栄一氏。1899年11月、長野県上田市生まれ。京都帝大法学部を卒業。安田信託銀行(株)に入り、営業部次長を最後に退行。日本曹達(株)取締役を経て、戦後の45年に藤田鉱業の常務となり、50年に社長に就任。観光事業に乗り出し、55年藤田観光を設立し、自ら社長に就いた。
山県有朋の私邸を引き継いた椿山荘のほか、藤田家の2代目当主・平太郎氏の大阪本邸の太閤園、箱根別邸の箱根小涌園、京都別邸の「ホテルフジタ京都」(2011年1月末に営業終了)を、藤田観光が経営することになる。
箱根小涌園で温泉を掘り当てる
藤田観光の事業の原点は箱根にある。小川氏の最初の挑戦は、箱根を一大温泉リゾート地へ変貌させたことだ。
小川氏は、華族・財閥が独占していたさまざまな庭園や邸宅を大衆に開放することが観光事業であり、経営者のなすべき社会事業であるとの信念のもと、根強くあった周囲の反対をものともせず、1948年、平太郎氏の純日本風の別荘を譲り受け、箱根小涌園として開業した。
藤田観光は、箱根小涌園誕生秘話をホームージに掲載している。
箱根小涌園開業当時、敷地内には温泉は発見されていなかった。それどころか、多くの専門家は「この地は掘削しても温泉は出ない」と断言していた。しかし、小川は再度箱根周辺の地質調査を実施させ、その結果、露出している地層から不透水層が発見されたのだ。「断固、掘るべし」小川の命のもと掘削工事が開始された。
そして1949年、肌寒い11月、運命のときは来た。日も沈んだ夜8時、掘削深度が75Mに達したとき、箱根周辺には轟音が響かせながら蒸気が土砂とともに吹き上げた。夜を徹して従業員一同は喜びを分かち合ったという。
創生神話のハイライトである。
(つづく)
【森村 和男】
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