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ストラテジーブレティン(280号)大きな政府の時代、出遅れる日本(前)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2021年4月26日付の記事を紹介。

急変した世界の経済常識、バイデン氏が舵を切る大きな政府

 コロナパンデミックを契機に世界の経済学と経済政策の常識が根本から変わった。レーガン・サッチャー政権時代から40年近くの間、支配的であった新自由主義(ネオリベラリズム)的常識、つまり財政赤字は避けるべきだ、自由貿易を尊重し、規制を緩和して産業や市場への国の介入はやめるべきだ、などの見方はあっさり捨て去られつつある。

 代わって大きな政府を柱とする、いわば「新ケインズ主義」が前面に出てきた。バイデン政権はコロナ対策1.9兆ドルに続いて、8年間で2.65兆ドルという巨額の環境、インフラ投資を打ち出した。半導体国産化支援500億ドル、EV開発と充電ステーション投資1,740億ドル、クリーンエネルギー産業支援460億ドル、高速ブロードバンド網構築1,000億ドル、スマートグリッドなど電力インフラ投資1,000億ドル、などの新技術基盤整備が盛り込まれている。

 この財政資金需要に対して、FRBは量的金融緩和で対応する。トランプ時代まで続いてきた税金や社会保障は勤労意欲を阻害するため、最小限に、との通念も棚上げされ、富裕層や企業への増税により、社会保障の増額が検討されてされる。

産業技術支援に本腰を入れる米政府

 中国のハイテク覇権に対抗するには、米国も国家主導の技術産業育成が不可欠である。ハイテク産業は巨額の初期投資が勝敗を決するため、初期コストを政府の支援により軽減することは必須である。なおさら国家ぐるみで露骨に産業育成をしてきた中国に、素手では対抗できなくなっている。中国はEVで先行しているだけではなく、太陽光パネルや風力発電の最大の生産国であり、それらに関連する世界特許の3分の1を保有し、エネルギー革命の先陣を切っている(ブリンケン国務長官の発表による)。EUも新エネルギーや半導体強化プランを打ち出した。米中欧の国家ぐるみの産業競争が展開されつつある。

サプライサイド強化からディマンドサイドの強化へ

 これまでの経済常識の観点から、空前の財政赤字はモラルハザードを引き起こし、インフレや金利上昇など禍根を残すとの批判が語られる。しかし、現実はむしろ逆だろう。コロナパンデミックが起きる前から、先進国経済の3分の1が長期金利マイナスに陥るという異常事態にあった。また、デフレによる経済成長の下方屈折という危機が進行していた。これらの病は、つまるところ尋常ではない貯蓄(=購買力の先送り)と、需要不足によってもたらされた。

 そうした環境は、ケインズが直面した1930年代の世界大恐慌下の経済状態と類似している。金利が臨界点に達し、貨幣選好が極端に進み、金融政策が無能化する「流動性の罠」が典型的症状である。当時と同様に、財政による需要創造が強く求められているといえる。

 レーガン・サッチャー政権以降の新自由主義の時代においては、供給力不足と貯蓄不足が経済のボトルネックであり、インフレが最大の経済リスクと考えられていた。ゆえに、新自由主義の経済学はサプライサイドの強化に注力するサプライサイダーであった。しかし、ここ10年来の世界的な低金利は、貯蓄が豊富で、需要が慢性的に弱いことを示している。ということは、財政赤字がダメージをもたらすことはなく、むしろ必要であるのかもしれない。「MMT(現代貨幣理論)」は、財政赤字が民間投資の排除や金利押し上げを招くことはないと主張している。経済学と経済政策の軸が明らかにディマンドサイドにシフトしつつあるといえる。

(つづく)

(後)

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