国鉄分割民営化の制度の再設計(前)
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運輸評論家 堀内 重人 氏
国鉄の分割民営化が実施されてから34年が経過するが、20年をすぎた辺りから、JR北海道の事故の多発や不祥事などの問題が顕在化し、完全に制度が疲労している。コロナウイルスが終息したとしても、元通りに旅客需要が戻ることは難しく、これを契機に制度の再設計が必要だ。
JRが抱える問題
JR北海道の事故の多発や不祥事などの問題の背景には、経営状態が悪いため、新規に職員を採用しており技術の継承がうまく進んでいなかったことや、労使対立などがある。気動車の床から出火した事故は、正しく定年退職した職員に代わり、新規に若手の職員の採用を控えてきたことが、大きく影響している。
土木構造物に関しては、車両の不具合であれば、直ぐに修理しないと事故が起こり危険であるためすぐに修理するが、軌道などの土木構造物は、たとえ不具合があったとしても、直ぐに事故が起こり危険であるとはいえない。そうなると資金的にゆとりがあるときに、補修を行おうとする。それが「貨物列車の脱線」というかたちになって現れた。
JR北海道に続いて、事故や不祥事こそ発生していないが、JR四国の経営危機も表面化している。四国の場合、人口が100万人を超える大都市がないだけでなく、四国全土に高速道路が張りめぐらされている上、高松~松山間で鉄道は、今治への迂回を強いられるのに対し、高速道路は山間部をショートカットで結んでいる。
JR四国も、高速道路に対抗するため、予算本線の電化やカーブを高速で走行できる振り子式車両を導入するなどしているが、競争に関しては劣勢に立たされている。
残る三島会社の1つであるJR九州も、発足当初は厳しい経営が予想されていた。九州内も高速道路の整備が進んでいたことに加え、主要な大都市の駅は市の中心部から外れている。その上、火山性の土地などの地形的要因も加わり、迂回を強いられるなど、鉄道の能力が発揮しづらい経営環境にある。
JR北海道、JR四国、JR九州は、最初から経営環境が厳しいことから、国鉄の長期債務の継承が免除されただけでなく、「三島基金」が設けられ、これの運用益で損失を補てんする施策が採用された。
この「三島基金」であるが、国鉄分割民営化が実施された当初は、金利も高くて運用益も多かったが、バブル崩壊後は「低金利」となってしまった。結果として、経営が好調なJR東海やJR東日本、そして国鉄の債務を継承したJR西日本には、有利になった反面、経営の苦しい三島会社には、運用益の減少から経営が厳しくなった。
幸いなことにJR九州の場合、民営化後に不動産事業に進出を行い、そのなかでもマンションの分譲が好調なことから、それの利益で鉄道事業の損失を内部補助できるようになったこともあり、2016年に悲願であった株式の上場を達成している。
JR貨物
残るJR貨物に関しては、オイルショックを契機に我が国の産業構造が、鉄鋼や造船などを中心とした重厚長大型から、組み立てや素材などを中心とする軽薄短小型に、大きく変わってしまった。これらの産業では、鉄道よりもトラック輸送に適する。また1975年ごろに、ヤマト運輸などの宅配貨物業者が誕生し、高品質な輸送サービスが利用者から支持を集めたことなどもあり、国鉄貨物輸送は右肩下がりの状態にあった。
国鉄も、従来の操車場を経由した輸送システムでは、時間が掛かり過ぎることもあり、直行型への切り替えや、コンテナ輸送を強化するなど、貨物のテコ入れを実施するなどを行ったが、トラックへ流れた貨物は戻ってこなかった。
国鉄分割民営化の際、貨物輸送は分割に馴染まないことに加え、大幅に輸送量が増えないことや、国鉄のなかでも赤字事業であったことから、貨物専用線などを除けば、自社では線路を所有せず、旅客会社の線路を借りて営業を行う、第二種鉄道事業者としてスタートした。そしてJR貨物が旅客会社に対して支払う線路使用料も、貨物列車の運行がなければ支払いが免除されるアボイダブルコストをベースとした価格とされた。
これに対しては、JR旅客会社からは「重量が重く、かつ主要幹線では高速運転を実施する貨物列車により、自社の線路が傷むのに、アボイダブルコストをベースとした線路使用料しか、もらえないなんて不公正だ」と思っている。
(つづく)
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