世界平和に向けて(22)日本政府がベトナム大手送り出し機関5社から実習生の新規受け入れを停止する方針(前)
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外国人技能実習制度を監督する日本の認可法人・外国人技能実習機構(OTIT)は、ベトナム大手送り出し機関5社から技能実習生の新規受け入れを停止する方針を、ベトナムの労働・傷病兵・社会問題省海外労働管理局(DOLAB)に文書で通知した。2カ月後をメドに実行すると説明している。
現在、ベトナム政府が認可した実習生送り出し機関は約460社あるが、OTITの新規受け入れ停止対象をこの大手5社に限定したことには、理由がある。
OTITがDOLABから、ベトナムの送り出し機関から2018年に送り出された実習生数の資料提供を受けた。日本の受け入れ企業で実施される、各実習生の技能実習計画に記載された送り出し機関の会社名称と照らし合わせて、失踪者が多発している送り出し機関を特定した。そのうえで、460社の送り出し機関のなかで18年と19年の合計失踪者数の割合が平均の約3倍を超えていたのがこの5社であったのだ。
この大手5社を除く約455社の送り出し機関からは、これまで通り、実習生の送り出しが行なわれるため、国際間の移動が解禁された段階で、感染症対策を講じたうえで送り出しと受け入れが再開される。
一般的には、ベトナムの送り出し機関1社につき、日本側の監理団体は3社まで受け入れ先の契約ができる。ほとんどのベトナムの送り出し機関は、日本側の監理団体3社と契約を交わしている。この大手5社の送り出し機関と実習生の受け入れ契約を交わしている、日本の各監理団体(協同組合)は、他の送り出し機関との契約を早急に取り付ける必要があるだろう。
大手5社が送り出した実習生の失踪者数が平均の3倍以上であることの原因として、実習生の気まぐれや我儘であるとは、到底考えられず、その要因はさまざまだろう。実習生らがさまざまな要因を抱えることが重なり、失踪するケースの事例を以下に挙げる。
(1)本人の考えに問題がある場合
日本に来るのが初めての実習生ばかりであるため、来日当初は高い志や希望、理想、目標をもって働き始めたが、期待とは異なる現実と向き合ったために悩んでしまった。
(2)受け入れ企業の対応に問題がある場合
労働時間や賃金が雇用条件と異なっており、技能実習計画と異なる業務に従事させられてたため、悩んだ。残業代の未払い、暴力、セクハラ、パワハラによる被害を受けていたが、改善してもらえなかった。そもそも企業が外国人を受け入れる体制が整っておらず、職場環境の劣悪さに悩んだ。
(3)ベトナム側に問題がある場合
ベトナムの商習慣として、「紹介料や手数料などの高額な債務を背負っても、日本に行けば幸せになれる、毎月、高額な収入がもらえる」などと言われて、根拠のない期待を抱き、駆り立てられた。
以上は、実習生から直接聞いた話であるが、抱いていた思いと現実のギャップも失踪の要因の1つのようだ。大手5社から送り出された実習生数は他社と比較しても多いため、多額の債務を背負って来日した実習生も多かったのではないかと推察される。今回の日本政府の対応により、このように債務を背負って来日することが暗黙の了解となり、実習生からの搾取が繰り返されていた現況が、今後は減少していくだろう。
コロナ禍でベトナムからの実習生の送り出しが止まると人手不足の企業などでは、一時的に困ることもあると考えられるが、今回、大手5社からの実習生受け入れが停止されたことで、実習生が来日するときに多額の債務を抱えることがなくなれば、実習生の心の悩みや苦しみが軽くなり、失踪や犯罪に向かう実習生が減少すると考えられるのは、喜ばしいことだ。
持続可能な開発目標SDGsの16は「平和と公正をすべての人に」と掲げ、あらゆる形態の汚職や賄賂が減少し、世界中の人々が平和と公正の下で生きていける世界をつくることを目指している。
本来の技能実習制度の趣旨に鑑みて、必要以上の金銭的な負担がなく、正規の条件でクオリティの高い外国人の来日が期待できるように、現状を改善する交渉をベトナムと行う上でも、今がチャンスであると筆者は考えている。
【岡本 弘一】
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