ストラテジーブレティン(284号)なぜ、大きな政府が必然的なのか~その投資への含意(2)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は2021年7月13日付の記事を紹介。
バイデン政権が登場し、大きな政府への流れが決定的になった。この急旋回は、コロナが原因となって起きたものではなく、コロナは単にきっかけに過ぎない。底流で進行していたレジーム転換が一気に表面化したものと考えられるので、この流れは不可逆的なものであろう。賢い政府が今ほど求められるときはない。
(2)大きな政府を必然とする要因、1.米中対決
産業技術支援に本腰を入れる米政府
中国のハイテク覇権に対抗するには、米国も国家主導の技術産業育成が不可欠である。とくにハイテク産業は巨額の初期投資が勝敗を決するので、初期コストを政府の支援により軽減することは必須である。まして国家ぐるみで露骨に産業育成をしてきた中国に、素手では対抗できなくなっている。
かつて2000年代の初めの10年間に、中国は国家資本の際限ない投入と補助金により、鉄鋼の世界生産シェアを10%台から57%(20年)に引き上げた。同様に、太陽光発電パネルでは日米欧の競争相手をなぎ倒し、世界シェア80%を獲得した。今や液晶でも中国シェアは3割強と世界最大になっている。自動車用バッテリーでは10年前に設立されたCATLが、パナソニックを抜き世界一となった。さらに移動体通信機器では中国のZTE、ファーウェイの2社で世界シェア4割を握り、米日欧企業を大きく引き離している。今や中国はハイテク立国に焦点を絞り、軽工業や重厚長大産業は海外へシフトさせ、最先端技術で世界を支配しようとしている。
トランプ政権は対中制裁関税、知的所有権遵守と違反への制裁、企業への国家支援の停止などを求めてきた。しかし、バイデン政権は一歩進めて、米国がハイテク、先端技術で中国を凌駕すべく、国家主導による壮大な産業支援を打ち出した。
米上院は6月8日、中国との技術競争に備える包括的な対中法案(「米国イノベーション・競争法案」)を可決した。超党派によるこの法案は、米国の技術や研究の強化に5年間でおよそ2,000億ドル(約22兆円)を充てる内容。半導体・通信機器の生産・研究の強化に約540億ドル(約6兆円)を支出する。うち20億ドル(約2,100億円)は、深刻な供給不足に陥っている自動車向け半導体に充てられる。
上院案にはこのほかにも中国政府の支援を受ける企業が製造・販売するドローン(無人機)を購入できないようにする措置など、中国に関連した条項が盛り込まれた。また、米国でサイバー攻撃や米企業からの知的財産窃盗に関与した中国の組織に幅広い制裁を義務付けるとともに、人権侵害に用いられる可能性のある製品について輸出管理の見直しを規定している。
大統領・ホワイトハウスと、両党の上院指導者の見解は完全に一致しており、下院の承認を経て成立するものと思われる。曰く「我々は21世紀を勝ち取るための競争のさなかにある。(この法案で)スタートの合図が鳴った。あとれを取ることは許されない」(バイデン大統領)、「何もしなければ、超大国としての米国の時代は終わる。我々の目の黒いうちは、そうした時代は終わらせない。今世紀中にアメリカが中途半端な国になるのを見たくはない」(民主党上院トップのシューマー院内総務)、「中国共産党に勝利するのみならず、その脅威を利用し、イノベーションへの投資を通じてより良い米国を実現する」(共和党側の共同提案者であるトッド・ヤング上院議員)。レモンド米商務長官は、この資金援助により、米国に7~10カ所の半導体工場が新設される可能性があると述べた。
大きな政府による景気浮揚、国力高揚は覇権国対決においても重要な意味をもっている。歴史的事例として、異論はあるかもしれないが、1930年代のドイツが想起される。30年代のドイツにおいて、ヒットラーは台頭初期の場面でアウトバーン建設に代表される積極的財政政策を遂行し経済を活性化し、失業率を低下させ、国力浮揚を図った。ヒットラーは世界で最も早くケインズ政策を採用したと言われている。この積極的財政政策がヒットラーに対する国民の求心力を高め、またドイツの優位性を著しく高め、大戦初期のドイツ軍の快進撃を可能にした。現在、中国は公的部門主導の需要振興策を遂行、中国の製造業市場規模は米国の2倍に達している。この巨大な国内市場が中国の競争力の源泉をなしている。米国は国内景気振興策で中国に負けるわけにはいかない、という側面がある。
(つづく)
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