2024年11月16日( 土 )

日本経済転落に拍車をかけた安倍経済政策(中)

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政治経済学者 植草 一秀 氏

アベノミクス失敗

 議員連盟発足会合に岩田規久男元日銀副総裁が招かれた。岩田氏は第2次安倍内閣発足直後の2013年3月から2018年3月まで日銀副総裁を務めた。岩田氏は日銀副総裁就任に際し、2年以内に消費者物価上昇率を2%以上に引き上げると公約した。

 日銀副総裁人事は国会同意を必要とする。2013年3月5日の衆院議員運営委員会で同意人事審議が行われた。民主党の津村啓介議員が公約達成に職を賭すのかと尋ねた。岩田氏は「責任のとり方、一番どれが良いのかはちょっとわかりませんけれども、やはり、最高の責任のとり方は、辞職するということだというふうに認識はしております」と回答。津村氏は2年後の2015年春時点での消費者物価上昇率2%の達成如何で職を賭けるのかと念を押した。岩田氏は「それで結構でございます」と明言した。その後、日本の消費者物価上昇率が前年比2%上昇を達成することは一度もない。だが、岩田氏は日銀副総裁の椅子に5年間居座った。

 ポストコロナ議員連盟発足会合で安倍晋三氏はインフレ率2%目標に言及。「目標として掲げたが、正しくいえば2%以下で安定させることでもよかった」「マクロ政策の目標は雇用なので達成したのではないか」「開き直るのかと言われたら、それはわかっていない議論だと思う」と述べた。失敗を成功と強弁する姿に唖然とする。

 安倍氏は任期中に雇用が増えたからアベノミクスは成功と強弁するが負け犬の遠吠え。雇用の数は増えたが雇用の質が悪化した。経済全体のパフォーマンスを示す最重要指標が実質GDP成長率。アベノミクス下の成長率は0.6%。戦後日本経済のなかでの最悪なのだ。

 労働者にとっての最重要経済指標は1人あたり実質賃金。その推移を見ると驚愕する。数値は現金給与総額の指数で、本給、時間外手当、ボーナスのすべてを含む。この1人あたり実質賃金指数が2012年から2020年までの8年間に5.6%減少した。世界で最悪の賃金減少国だ。雇用者の数が増えても経済全体がゼロ成長。増えない総所得を分け合う人数だけが増えた。結果として1人あたり実質所得が大幅に減少した。

虫けら同然の扱い

実質賃金指数
実質賃金指数

 第2次安倍内閣発足後に実行された消費税大増税。消費税率は2014年4月に5%から8%に、2019年10月に8%から10%に引き上げられた。2度とも日本経済は撃墜された。2019年10月増税を背景に、日本経済は2018年10月から景気後退期に移行。この景気後退を加速させたのが2020年に入った後のコロナ・パンデミックだった。

 アベノミクス下で唯一、絶好調推移を示したのが企業収益。法人企業の税引き後当期純利益は2012年から2017年までの5年間に2.3倍の規模に激増。アベノミクス第三の矢「成長戦略」核心は労働規制の撤廃。目的は大企業の労働コスト削減だ。「働き方改革」という名の「働かせ方改悪」が強行された。長時間残業は合法化され、定額残業させ放題労働制度が拡張された。増加した雇用の大半は非正規雇用だった。

 国税庁の民間給与実態調査は、年を通じて働く給与所得者の2割以上が年収200万円以下であることを示す。全体の55%が年収400万円以下だ。圧倒的多数の国民が低所得ゾーンに押し流されている。所得の少ない者にとって最も過酷な税が消費税。所得税の場合、夫婦子2人片働き世帯主の場合、年収350万円程度までは無税。生存権を守るため税負担ゼロだ。

 ところが、消費税は所得がゼロでも税率10%。収入全額を消費に充てなければ生きてゆけない者は、収入金額の10%が税金でむしり取られる。農民一揆時代より過酷な税制が敷かれている。

 他方、大企業に対しては減税に次ぐ減税が実施されてきた。消費税が導入された1989年度から2019年度までの31年間に消費税で397兆円が吸い上げられたが、所得税で275兆円、法人税で298兆円の減税が実施された。大企業を優遇し、一般労働者を虫けら同然に扱う経済政策が展開されている。

 アベノミクスとは労働者を虐げて大資本を潤わす経済政策プログラムのこと。際限なく拡大する格差が経済低迷原因になる。高所得者の所得が増えても消費は増えない。消費を拡大させるには所得の少ない人の分配所得を増やすことが必要。逆を実行しているために経済が一段と低迷する。

(つづく)


<プロフィール>
植草 一秀
(うえくさ・かずひで)
植草 一秀 氏1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測精度の高さで高い評価を得ている。また、政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。

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