2024年11月17日( 日 )

小売こぼれ話(8)コストコは異端児か?(前)

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カルフールとウォルマートの失敗

海外スーパー イメージ 8月5日、ウォルマートに続いてドイツの大手小売メトロが10月末に日本での営業を終えると発表した。

 欧米の大手がことごとく失敗する我が国の小売業界について、その特殊性が取りざたされる経済紙のもっぱらの評価は、卸が介在する特殊性の壁を乗り越えられなかったということだが、それだけが理由ではない。一番の理由は、お客のイメージと現実のギャップ。消費者視点の欠落だ。

 2000年、千葉県・幕張に鳴り物入りでカルフールがオープンした。大挙して押しかけたお客の目当ては、フランスのイメージ溢れるお洒落な売り場とワインなどのフランステイストの商品だった。しかし、お客が目にしたのはその逆のラフな売り場と商品だった。当てが外れたわけである。

 お客がもつイメージとの大きなギャップは、開店と同時に店の立ち位置を空虚にした。空虚とは感動がないということである。まさにお客の反応は「なんじゃこりゃ?」だったのだ。開店と同時にカルフールの運命が決まった。

 ウォルマートも似たような構図だった。西友を買収して一部改装して展開したものの、ファッションにはおしゃれ感がなく、食品にもこれといった特徴がなかった。これでは「わざわざの店」にはなれない。可もなく不可もない店を続ければ、そこに待つのは撤退だけだ。

 「モノがある、正常な状態である、買いやすい」。高度成長時代まではそれでよかった。だが、成熟した小売市場には感動が必要だ。ウォルマート、カルフール、テスコにはそれがなかった。それなら消費者はわざわざその店を選ぶ必要がない。

海外へ進出するドイツ大手小売

 メトロついでに、ほかのドイツの大手小売を考える。海外に進出しているのはリドル、アルディ、トレーダー・ジョーズが著名なところだ。

 アルディとトレーダー・ジョーズはアメリカで成功している。リドルはヨーロッパ25カ国以上に出店し、次にアメリカを狙っている。

 彼らは300坪前後というアメリカでは極めて狭い面積の店でスタートし、当初は苦戦した。彼らと逆のパターンでドイツに出店したのがウォルマートである。しかし、ウォルマートはドイツ市場に受け入れられなかった。

 その理由をウォルマートの副社長だったハロルド・ジョンソン氏に直接聞いたことがある。彼の答えは、「その理由は山ほどある」というものだった。つまり、わからないということだ。

 それなりの商圏を必要とするアメリカの巨大な店舗は、小型店舗に慣れた消費者のライフスタイルに合わなかったのだろうか。問題はチャレンジスピリットの差にある。アルディやトレーダー・ジョーズは当初の不振にもかかわらず出店を続けた。

 ウォルマートが寿命の尽きたGMS既存店舗を受け継ぎ、カルフールが様子見的な出店をしたのに比べ、思惑通りの数値が上がらなくてもアルディは積極的に出店を続けた。その結果、大規模な店舗に慣れていたアメリカの消費者が、近くて便利で安いアルディという小さな店舗の使い勝手の良さに気づいた。

 トレーダー・ジョーズはオーガニック製品と販売するほぼすべての商品について、価格と品質にこだわることで消費者の共感を得た。アメリカ版「近くて便利」な店だ。

 この2社に続き、リドルもその独特なポジショニングでアメリカでの成功を揺るぎないものにするはずだ。

日本市場ではトレーダー・ジョーズが有望

 では、これらの企業が日本に進出したらどうだろう。アルディとトレーダー・ジョーズは、我が国のスーパーマーケットとドラッグストアの中間に位置する。アルディがハードディスカウントで訴えるのはもっぱら価格だ。一方、トレーダー・ジョーズは、商品のほとんどが品質に強いこだわりをもつPBで占められる。

 このうち、我が国で受け入れられそうなのはトレーダー・ジョーズだ。なぜなら、販売する商品がすべてこだわりをもち、しかも気に入らなかったら、たとえ使用していたとしても無条件で返品を受け付けるからだ。消費者がそこに感じるのは誠意と信頼である。

 無条件の返品・交換・返金。これは欧米の小売店で普通に行われている商習慣だが、たとえ万引き商品であっても返金することになりかねない。しかし、レシート提出や返品可能日数などの制約があると、欧米のお客はそれだけで来なくなるという。

 店にとっては厳しい「お客様第一」だが、お客にとっては極めて好都合なやり方である。アメリカに進出した我が国の小売業がうまく行かないのは、この部分にあるといわれるほどの顧客優遇だ。日本で同じことをやれば、おそらくお客の大きな支持を得るだろう。

(つづく)

【神戸 彲】

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